「ジェトロ2021北米進出日系企業実態調査」結果について

2021年12月17日

本調査結果の主要ポイント:
経済再開により、在北米日系企業の業績見込みは改善。
今後1~2年の事業拡大検討企業は2019年の水準を上回る

配布資料:「2021年度 海外進出日系企業実態調査(北米編)」(調査結果)PDFファイル(3.6MB)

新型コロナ禍からの経済再開により、2021年に黒字を見込む日系企業の割合は米国で6割弱、カナダでは7割近くとなり、両国とも前年比で10ポイント以上増加したが、2019年の水準までは回復しなかった。リーマンショック直後の2010年と比べると、米国の回復ペースは鈍いが、カナダは2010年を超える回復となった。

今後1~2年の事業拡大を検討する企業は、米国で5割近く、カナダで4割近くとなり、2019年の水準をそれぞれ上回った。拡大の理由としては「現地市場での売上増加」が筆頭要因に挙がった。

サプライチェーンにおける人権の問題について、米国では6割近く、カナダでは7割近くの企業が経営問題として認識。サプライチェーンにおける人権尊重に関する方針を持つ企業は、米国で約半数、カナダで6割強で、これらのうちそれぞれ4割強が調達先へも準拠を求めている。

通商環境の変化が2021年の業績に与える影響について、米国では「影響はない」「わからない」「全体としてマイナスの影響がある」がそれぞれ3割前後で続いた。前年と比べ「わからない」が10ポイント以上増えた。

経営上の課題として、米国、カナダとも「新規顧客の開拓」が筆頭要因となった。経営上の課題への対応策として、両国とも「競合製品との差別化」が最も高かった。

脱炭素化に取り組む企業は米国で3割強、カナダでは4割強だった。業種別でみると、米国では自動車等、ゴム・窯業・土石、電気・電子機器で5割を超えた。

バイデン政権の政策がビジネス活動に与える影響について、「わからない」が4割近く、「影響はない」は2割強、「全体としてマイナスの影響」「全体としてプラスの影響」はそれぞれ1割台だった。経営に影響を与えるバイデン政権の政策分野としては、「米国法人税制」「新型コロナ対応」「対中国政策」「環境・エネルギー政策(気候変動対策)」が上位に挙がった。

本調査について

  • ジェトロは2021年9月、米国・カナダの日系企業(日本側出資比率が10%以上の現地法人、日本企業の支店)1,878社(米国1,697社、カナダ181社)を対象に、オンライン配布・回収によるアンケートを実施。978社(米国851社、カナダ127社)より有効回答を得ました(有効回答率52.1%)。
  • 本調査は、原則年1回、ビジネスの最前線にいる進出日系企業の活動実態を把握するために実施しているもので、米国は第40回、カナダは第32回調査になります。また、本年度より日本企業の支店を調査対象に加えました。
  • 設問項目:
    1. 営業利益見通し、2.今後の事業展開、3.サプライチェーンにおける労働・安全衛生など人権に関する方針、4.環境問題への対応、5.デジタル関連技術の活用、課題、 6.経営上の課題、7.バイデン政権の政策、8.通商環境の変化、 9.原材料の調達先、製品の生産体制および販売先、10.FTA/EPAの活用・影響

調査の結果概要

1.営業利益見通し

  • 2021年に黒字を見込む日系企業の割合は米国で59.2%となり、前年(47.1%)から12.1ポイント増加した。カナダでは67.5%と前年(53.8%)から13.7ポイント増加した。両国とも前年比で10ポイント以上増加したが、2019年の水準(米国66.1%、カナダ77.1%)までは回復しなかった。リーマンショック直後の2010年(米国70.2%、カナダ65.2%)と比べると米国の回復ペースは鈍いが、カナダは2010年を超える回復となった。
  • 営業利益見込みを業種別でみると、米国では需要の回復や増加により食料品(83.9%)や販売会社(80.8%)、運輸業(80.0%)で黒字見込みの割合は8割以上となったが、行動制限による需要減や半導体不足による工場の操業停止により旅行・娯楽業(赤字見込み64.3%)や自動車等(同54.5%)、自動車等部品(51.6%)で赤字見込みの割合は5割を超えた。カナダでは、食料品(100%)、一般機械(87.5%)、鉄・非鉄・金属(83.3%)などで黒字見込みが8割以上となったが、旅行・娯楽業(赤字見込み75.0%)や鉱業・エネルギー(同60.0%)で赤字見込みは6割以上となった。
  • 2021年の営業利益見込みが前年比で「改善」を見込む企業は米国で半数を超え(51.6%)、前年の16.8%から34.8ポイント上昇した。経済活動の再開や住宅需要の増加などにより、小売業(90.9%)や不動産・賃貸業(87.5%)で「改善」見込みの割合が突出して高かった。カナダで「改善」を見込む企業の割合は4割弱(39.4%)で、前年(14.4%)から25ポイント上昇した。業種別では運輸業(66.7%)や販売会社(52.4%)、一般機械(50.0%)で「改善」見込みが5割以上となった。
  • 営業利益見込みの前年比増減幅をみると、米国、カナダとも「横ばい」が3割を超え(米国31.5%、カナダ37.0%)、「1~5割増」が2割強(それぞれ24.0%、22.8%)を占めた。景況感を示すDI値(注)は米国は34.7、カナダ15.8となり、両国とも前年(米国△42.0、カナダ△39.7)から大幅に改善した。

    図1 在米国・カナダ日系企業の黒字比率と景況感DIの推移(2007~2022年)

    黒字比率と景況感DIの2007年以降の推移を米国、カナダそれぞれで示した図。米国の黒字比率は、2007年から2021年まで順に78.3%、61.7%、35.5%、70.2%、67.5%、73.3%、79.7%、82.3%、81.4%、77.5%、74.4%、74.5%、66.1%、47.1%、59.2%。米国の景況感DIは、2007年から2021年まで順に23.9、マイナス16.6、マイナス41.8、55.7、6.6、29.9、31.7、33.4、27.3、17.5、7.9、17.2、マイナス4.6、マイナス42.0、34.7で、2022年の見通しは40.3。カナダの黒字比率は、2007年から2021年まで順に75.8%、67.0%、51.5%、65.2%、64.2%、75.9%、75.4%、74.4%、76.0%、72.3%、75.3%、74.8%、77.1%、53.8%、67.5%。カナダの景況感DIは、2007年から2021年まで順に8.6、マイナス5.1、マイナス35.8、30.5、マイナス3.1、17.8、14.3、21.8、21.5、16.3、25.0、16.8、マイナス2.1、マイナス39.7、15.8で、2022年の見通しは32.6。

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  • 2021年の営業利益見込みを新型コロナ感染拡大前の2019年と比較すると、米国では「改善」が39.3%となった。業種別でみると、コロナ禍でも好調だった食料品(61.3%)や電気・電子機器(55.6%)で「改善」は5割を超えた。一方、「悪化」と回答した割合は32.8%となり、3分の1弱の企業では営業利益見込みが新型コロナ感染前の水準までは戻っていない。2019年比のDI値は6.5だった。
  • カナダでは、「改善」と回答した割合は2020年比と同じ39.4%であった。業種別では販売会社(57.1%)や運輸業(55.6%)、商社・卸売業(52.9%)で5割を超えた。一方、「悪化」と回答する割合は36.2%となった。旅行・娯楽業(87.5%)や自動車等部品(72.7%)で悪化の割合は7~9割と厳しい状況が続いている。2019年比のDI値は3.2だった。
     (注) Diffusion Indexの略で、営業利益が「改善」する企業の割合(%)から「悪化」する割合を差し引いた数値

図2 営業利益見込みの変化

2021年の営業利益見込みを米国、カナダでそれぞれ示した図。米国の2020年比「改善」は51.6%、「横ばい」は31.5%、「悪化」は16.9%。2019年比「改善」は39.3%、「横ばい」は27.9%、「悪化」は32.8%。カナダの2020年比「改善」は39.4%、「横ばい」は37.0%、「悪化」は23.6%。2019年比「改善」は39.4%、「横ばい」は24.4%、「悪化」は36.2%。

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2.今後の事業展開

  • 今後1~2年で事業の「拡大」を検討する企業の割合は米国で48.1%、カナダでは38.6%となり、両国とも新型コロナ感染拡大前の2019年(それぞれ47.5%、35.6%)の水準を上回った。米国では食料品(74.2%)や精密・医療機器(70.0%)で7割以上となり、カナダでは鉄・非鉄・金属(83.3%)で8割を超えた。
  • 拡大する理由としては、両国とも「現地市場での売上増加」(米国89.6%、カナダ77.6%)が筆頭要因に挙がった。拡大する機能については、販売機能(それぞれ65.4%、54.2%)、高付加価値品生産(35.1%、25.0%)、汎用品生産(20.1%、33.3%)が上位に挙がった。

    図3 今後1~2年で事業の「拡大」を検討する企業の割合

    今後1~2年で事業の「拡大」を検討する企業の割合の2012年以降の推移を米国、カナダそれぞれで示した図。米国は2012年から2021年まで順に57.1 %、60.1%、60.3%、56.7%、53.4%、57.1%、54.2%、47.5%、39.1%、48.1%。カナダは2012年から2021年まで順に37.4%、38.9%、46.3%、41.5%、40.8%、50.3%、46.2%、35.6%、29.9%、38.6%。

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  • 事業戦略の見直しに関しては、販売戦略の見直しを予定する割合は両国ともに3割近く(米国27.3%、カナダ27.8%)となり、管理・経営体制の見直しは2割台(それぞれ25.1%、21.4%)、調達の見直しは2割前後(23.2%、17.6%)、生産の見直しは1割台(18.9%、11.4%)だった。
  • 販売戦略の見直しとしては、両国とも販売価格の引き上げが5割強(米国52.0%、カナダ51.4%)で筆頭に挙がった。米国では販売先の見直し(41.9%)と販売製品の見直し(41.0%)が4割強で続いた。カナダでは、デジタル化の推進(45.7%)やバーチャル展示会などの活用の推進(40.0%)が4割以上で続いた。
  • 調達の見直し内容としては、調達先の見直し(米国82.3%、カナダ86.4%)や複数調達化の実施(それぞれ62.0%、59.1%)が高かった。米国では変更対象の調達先としては、米国(43件)、日本(40件)、中国(33件)が上位に挙がり、変更後の調達先としては米国(45件)、ASEAN(16件)、メキシコとその他アジア・オセアニア(それぞれ12件)が上位に挙がった。
  • 生産の見直しとしては、両国とも新規投資/設備投資の増強(米国59.0%、カナダ78.6%)、生産地の見直し(それぞれ40.4%、42.9%)、自動化・省人化(32.1%、50.0%)が上位に挙がった。米国では変更対象の生産先としては、米国(30件)、日本(8件)、中国(4件)が上位に挙がり、変更後の生産地としては米国と日本(それぞれ11件)、メキシコ(9件)が上位に挙がった。
  • 管理・経営体制の見直しとしては、両国とも「在宅勤務やテレワークの活用拡大」(米国59.7%、カナダ77.8%)が最も高かった。

3.サプライチェーンと人権

  • サプライチェーンにおける人権の問題について、 米国では58.5%、カナダでは68.3%の企業が経営課題として認識。企業規模によって認識度に差があり、米国では、大企業(従業員100人以上の企業)の認識度(66.1%)は中小企業(同100人未満の企業、54.3%)より11.8ポイント高かった。カナダでも、大企業(従業員50人以上の企業、72.1%)は中小企業(同50人未満の企業、63.8%)より8.3ポイント高かった。
  • 業種別では、米国では自動車等(81.8%)やゴム・窯業・土石(81.3%)、電気・電子機器部品(75.0%)、運輸業(73.3%)で7~8割強に達した。カナダでは、商社・卸売業(88.2%)、食料品(80.0%)で8割以上となった。
  • サプライチェーンにおける人権尊重に関する方針を持つ企業は、米国で半数弱(49.9%)、カナダで6割強(63.7%)。このうちそれぞれ4割強(米国42.5%、カナダ 42.9%)が調達先へも準拠を求めている。人権尊重に関する方針があり、かつ、調達先に準拠を求めている割合は、進出先国の調達先に対しては6割台(米国69.8%、カナダ65.6%)で、日本の調達先に対しては4割強(米国、カナダとも43.8%)だった。
  • 一方、納品先企業から人権尊重に関する方針への準拠を求められたことがある企業は、両国とも3割前後(米国34.0%、カナダ28.4%)だった。進出先国の納品先企業から準拠を求められたことがある企業は2~3割強(米国31.0%、カナダ22.4%)で、日本の納品先企業からは1割未満(米国5.6%、カナダ6.9%)だった。

図4 サプライチェーンにおける人権尊重に関する方針

サプライチェーンにおける人権尊重に関する方針を企業規模別に米国、カナダでそれぞれ示した図。米国は総回答数811社で、「方針があり、調達先に準拠を求めている」が21.2%、「方針があるが、調達先に準拠は求めず」が28.7%、「方針がないが、今後、作成する予定あり」が17.4%、「方針がなく、今後も作成する予定なし」が32.7%。大企業の回答数は281社で、「方針があり、調達先に準拠を求めている」が31.7%、「方針があるが、調達先に準拠は求めず」が33.8%、「方針がないが、今後、作成する予定あり」が12.1%、「方針がなく、今後も作成する予定なし」が22.4%。中小企業の回答数は530社で、「方針があり、調達先に準拠を求めている」が15.7%、「方針があるが、調達先に準拠は求めず」が26.0%、「方針がないが、今後、作成する予定あり」が20.2%、「方針がなく、今後も作成する予定なし」が38.1%。 カナダは総回答数121社で、「方針があり、調達先に準拠を求めている」が27.3%、「方針があるが、調達先に準拠は求めず」が36.4%、「方針がないが、今後、作成する予定あり」が9.9%、「方針がなく、今後も作成する予定なし」が26.4%。大企業の回答数は64社で、「方針があり、調達先に準拠を求めている」が21.9%、「方針があるが、調達先に準拠は求めず」が48.4%、「方針がないが、今後、作成する予定あり」が12.5%、「方針がなく、今後も作成する予定なし」が17.2%。中小企業の回答数は57社で、「方針があり、調達先に準拠を求めている」が33.3%、「方針があるが、調達先に準拠は求めず」が22.8%、「方針がないが、今後、作成する予定あり」が7.0%、「方針がなく、今後も作成する予定なし」が36.8%。

(注)米国:大企業は総従業員数100人以上、中小企業は100人未満。
   カナダ:大企業は総従業員数50人以上、50人未満。
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4.貿易協定の活用・影響

  • 回答企業の貿易協定利用率は米国で36.1%、カナダで51.5%。USMCA(カナダ:CUSMA、以下同様)の利用率はそれぞれ29.2%、46.8%で、日米貿易協定の利用率は28.0%、カナダの日本との貿易でのCPTPP利用率は37.7%だった。メキシコとの貿易でのUSMCA利用率は、両国とも3割近く(米国26.4%、カナダ27.5%)だった。米加間の貿易においては、カナダ(45.2%)の方が米国(22.6%)よりも高かった。
  • 輸出または輸入を行っている企業の貿易協定利用率は米国で43.0%、カナダで54.8%。USMCAの利用率はそれぞれ44.6%、55.8%で、日米貿易協定の利用率は34.7%、カナダの日本との貿易でのCPTPP利用率は45.5%だった。メキシコとの貿易でのUSMCA利用率は、カナダ(78.6%)の方が米国(46.8%)よりも高かった。また、米加間の貿易においても、カナダ(54.9%)の方が米国(39.7%)よりも高かった。

図5 貿易協定の活用状況(輸出または輸入を行っている企業)

輸出または輸入を行っている企業の貿易協定の活用状況を米国、カナダでそれぞれ示した図。米国では「総数」の回答企業数が426社で、利用率は43%、「USMCA」が289社で44.6%、「メキシコ(USMCA)」が235社で46.8%、「カナダ(USMCA)」が224社で39.7%、「日本(二国間協定)」が331社で34.7%。カナダでは「総数」の回答企業数が62社で、利用率は54.8%、「CUSMA」が52社で55.8%、「メキシコ(CUSMA)」が14社で78.6%、「米国(CUSMA)」が51社で54.9%、「日本(CPTPP)」が44社で45.5%。

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5.通商環境の変化が業績に与える影響

  • 通商環境の変化が2021年の業績に与える影響について、米国では「影響はない」が32.9%、「わからない」は29.0%で、「全体としてマイナスの影響がある」は26.2%だった。前年と比べ「わからない」が13.1ポイント増えた一方、「全体としてマイナスの影響がある」は10.1ポイント減少した。バイデン政権が2021年3月に発表した通商政策方針では、これまでの政策を見直すと報告したが、本調査の終了までに具体的な見直し内容が示されなかったことから、「わからない」の回答が増加したとみられる。
  • カナダでは「影響はない」は40.7%、「わからない」は31.4%で、「全体としてマイナスの影響がある」は16.9%だった。前年と比べ「わからない」が8.0ポイント増えた一方、「影響はない」は8.9ポイント減少した。

    図6 通商環境の変化が業績に与える影響

    通商環境の変化が業績に与える影響について、2020年と2021年で比較し、米国、カナダでそれぞれ示した図。米国の2020年は総回答数898社で、「全体としてマイナスの影響がある」が36.3%、「マイナスとプラスの影響が同程度」が5.7%、「全体としてプラスの影響がある」が3.8%、「影響はない」が37.8%、「わからない」が15.9%、「その他」が0.6%。2021年の総回答数803社で、「全体としてマイナスの影響がある」が26.2%、「マイナスとプラスの影響が同程度」が7.2%、「全体としてプラスの影響がある」が4.4%、「影響はない」が32.9%、「わからない」が29.0%、「その他」が0.4%。 カナダの2020年は総回答数137社で、「全体としてマイナスの影響がある」が20.4%、「マイナスとプラスの影響が同程度」が4.4%、「全体としてプラスの影響がある」が2.2%、「影響はない」が49.6%、「わからない」が23.4%。2021年は総回答数118社で、「全体としてマイナスの影響がある」が16.9%、「マイナスとプラスの影響が同程度」が8.5%、「全体としてプラスの影響がある」が1.7%、「影響はない」が40.7%、「わからない」が31.4%、「その他」が0.8%。

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  • マイナスの影響を受ける具体的な政策を聞くと、「通商法301条に基づく追加関税」(米国55.2%、カナダ35.0%)や「中国の米国に対する報復関税」(それぞれ32.0%、55.0%)、「米国の鉄鋼・アルミニウムを対象とした追加関税賦課」(24.1%、35.0%)が上位に挙がった。

6.経営上の課題

  • 新型コロナ禍で企業活動に制約がある中で、経営上の課題として、米国、カナダとも「新規顧客の開拓」(それぞれ62.0%、51.6%)が筆頭要因となった。米国では「従業員の賃金上昇」(57.9%)、「物流コストの上昇」(53.3%)が、カナダでは、「物流コストの上昇」(50.0%)、 「調達コストの上昇」(46.0%) が続き、雇用・労務面、原材料・部品調達面での課題を挙げる企業が多かった。

    図7 経営上の課題(複数回答)

    経営上の課題(複数回答)を上位項目のみ米国、カナダでそれぞれ示した図。米国は総回答数831社で「新規顧客の開拓」が62%、「従業員の賃金上昇」が57.9%、「物流コストの上昇」が53.3%、「調達コストの上昇」が52.2%、「従業員(一般社員)の確保」が48.1%、「従業員の質」が46.1%。カナダは総回答数124社で「新規顧客の開拓」が51.6%、「従業員の賃金上昇」が40.3%、「物流コストの上昇」が50.0%、「調達コストの上昇」が46.0%、「従業員(一般社員)の確保」が38.7%、「従業員の質」が34.7%。

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  • 経営上の課題への対応策として、米国、カナダとも「競合製品との差別化」(それぞれ47.5%、49.2%)が最も高かった。米国では「賃金の引き上げ」(46.7%)や「調達先・調達内容の見直し」(43.3%)が続き、カナダでは「各種規制への対応」(44.9%)、「リモートワーク・WEB会議の導入」(44.1%)が続いた。

7.デジタル

  • デジタル技術を既に活用している企業は、米国で47.6%、カナダで52.0%。デジタル技術を活用するメリットとして、米国・カナダともに「製品・サービスの品質が安定・向上」(それぞれ55.9%、47.7%)や「賃金上昇・労働力不足に対処できる」(49.4%、46.6%)が上位に挙がった。
  • 活用している技術では、米国・カナダともに、「EC」(59.1%、58.6%)や「データ蓄積・管理プラットフォーム」(37.2%、41.4%)、「ロボット」(32.2%、22.4%)が多かった。活用を検討している技術については、「人口知能(AI)」(38.3%、32.7%)や「データ蓄積・管理プラットフォーム」(36.6%、51.0%)、「IoT」(30.0%、32.7%)が上位となった。

8.環境問題への対応

  • 脱炭素化に取り組んでいる企業は米国で33.5%、カナダでは43.2%だった。企業規模別でみると、大企業が米国で53.6%、カナダで52.2%とどちらも半数を超えた。業種別でみると、米国では自動車等(63.6%)で6割を超え、ゴム・窯業・土石(56.3%)や電気・電子機器(51.4%)で5割を超えた。カナダでは、食料品で100%となり、鉄・非鉄・金属で66.7%だった。

    図8 脱炭素化への取り組み状況

    脱炭素化への取り組み状況を企業規模別に米国、カナダでそれぞれ示した図。米国は総回答数831社で、「すでに取り組んでいる」が33.5%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が29.2%、「取り組む予定はない」が37.3%。大企業は293社で、「すでに取り組んでいる」が53.6%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が30.4%、「取り組む予定はない」が16.0%。中小企業で538社で、「すでに取り組んでいる」が22.5%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が28.6%、「取り組む予定はない」が48.9%。 カナダは総回答数125社で、「すでに取り組んでいる」が43.2%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が22.4%、「取り組む予定はない」が34.4%。大企業は67社で、「すでに取り組んでいる」が52.2%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が26.9%、「取り組む予定はない」が20.9%。中小企業は58社で、「すでに取り組んでいる」が32.8%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」が17.2%、「取り組む予定はない」が50.0%。

    (注)米国:大企業は総従業員数100人以上、中小企業は100人未満。
    カナダ:大企業は総従業員数50人以上、50人未満。
    ジェトロ作成

  • 取り組む理由としては、米国、カナダともに「本社(親会社)からの指示・推奨」(米国68.2%、カナダ66.7%)が7割近くで最も多く、「進出国・地域の中央・地方政府による規制や優遇措置」(それぞれ30.2%、42.0%)が続いた。
  • 取り組み内容としては、「省エネ・省資源化」(米国66.1%、カナダ58.0%)、「環境に配慮した新製品の開発」(それぞれ37.5%、33.3%)が上位に挙がった。取り組みへの課題としては、人材・能力不足やコスト増などが聞かれた。

9.バイデン政権の政策

  • バイデン政権の政策がビジネス活動に与える影響について、「わからない」が38.4%を占め、「影響はない」は22.3%、「全体としてマイナスの影響がある」は14.1%、「全体としてプラスの影響がある」が13.6%となった。「わからない」が高いのは、バイデン大統領は選挙公約で増税を掲げたが、連邦議会で野党共和党の反対などにより進んでいないことが要因とみられる。
  • 業種別にみると、マイナスの影響があると回答した企業の割合は、自動車等(36.4%)やゴム・窯業・土石(26.7%)で高く、バイデン政権が進めている自動車のEV化が背景にあるとみられる。プラスの影響があると回答した企業の割合は、精密・医療機器や事業関連サービス(それぞれ26.3%)で高かった。
  • 経営に影響を与えるバイデン政権の政策分野としては、「米国法人税制」が55.1%を占め、「新型コロナ対応」(44.0%)、「対中国政策」(38.1%)「環境・エネルギー政策(気候変動対策)」(31.1%)、「移民・外国人就労ビザ政策」(30.1%)が続いた。

    図9 経営に影響を与えるバイデン政権の政策分野(複数回答)

    経営に影響を与えるバイデン政権の政策分野(複数回答)を上位項目のみ示した図。回答企業数は806社で、「米国法人税制」が55.1%、「新型コロナウイルス対応」が44.0%、「対中国政策」が38.1%、「環境・エネルギー政策(気候変動対策)」が31.1%、「移民・外国人就労ビザ政策」が30.1%、「バイ・アメリカン政策」が24.2%、「労働法制」が20.5%、「サプライチェーン強化策」が16.1%、「インフラ整備」が14.5%、「通商政策(対中政策以外)」が12.4%。

    (注)上位項目のみ掲載
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ジェトロ海外調査部 米州課 (担当:中溝、大塚、滝本)
Tel:03-3582-5545