アフリカでのビジネス事例伊藤超短波、現地代理店戦略で切り拓くエジプト市場
2026年9月24日
ジェトロは、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、国連工業開発機関(UNIDO)とともに2026年7月27日、「四機関連携 アフリカビジネスセミナー in埼玉 ―成長市場アフリカをビジネスチャンスへ―」を埼玉県さいたま市で開催した。アフリカ市場の概況や各機関の支援紹介を行ったほか、アフリカビジネスに取り組む埼玉県企業が登壇した。伊藤超短波(本社:埼玉県川口市)は、自社のエジプトを中心としたビジネス経験について語った。

国際見本市を足がかりに広げた海外事業
伊藤超短波は2026年7月に創業110周年を迎えた医療機器メーカーだ。低周波や超音波などのエネルギーで身体の不調をケアする「物理療法」の技術を中心に、病院・接骨院向けから家庭用、歯科用、美容用機器まで幅広く手がけている。1977年に貿易事業を本格化して以来、海外事業に長く取り組んできた。1996年にドイツで開催された国際医療機器見本市「メディカ(MEDICA)」への出展を機に、アラブ首長国連邦(UAE)で開催される「アラブヘルス〔Arab Health、現ワールドヘルスエキスポ・ドバイ(World Health Expo Dubai、WHX)〕」や学会などの場も活用して取引国を広げ、これまでに100カ国以上への輸出実績を持つ。アフリカ地域では、エジプトのほか、南アフリカ共和国やタンザニアでの取引実績がある。海外市場では、同社製品は性能に加えて「丈夫で壊れにくい」と評価されている。現地の病院では、20年以上前に導入された機器が現在も使用されている例があるという。
アラブヘルス2025出展の様子(同社提供)
主力の輸出製品は、病院のリハビリテーション室に導入され、医師や理学療法士が使用する医療機器だ。新興国では国営や軍の病院が多く、入札案件が市場の大半を占める国も少なくない。こうした市場で大きなハードルの一つとなるのが、国ごとに異なる許認可制度だ。エジプトでは、規制当局であるエジプト医薬品庁(EDA)に外国製の医療機器を登録する際、現地の登録申請者(現地代理人)を通じて申請する必要がある。認可取得を担うのはこの現地代理人であり、実務上はその力量次第で認可の可否やスピードが大きく左右されるという。
エジプトの病院に設置された低周波・超音波組み合わせ理学療法機器「EU-921」(同社提供)
現地代理店と向き合う中で見えた課題
同社のエジプト市場への参入は、メディカへの出展がきっかけだった。同展示会を通じてエジプトのA社と独占販売契約を結んだ。A社は現地代理人であると同時に販売代理店も兼ねており、20年以上にわたる取引関係を築いた。当時のA社社長の尽力により、販売エリアはサウジアラビアにも広がった。
しかし、事業拡大を見込んでいた矢先にA社社長が急逝した。その後も事業は継続されたが、売り上げは振るわず、支払いの遅延も生じるようになった。A社からは不振原因の説明があったが、当時はメールによる遠隔でのやりとりが中心で、現地の実態が見えにくく、その説明を受け入れるしかなかった。
転機となったのは、2019年にエジプト出身の社員を採用したことだった。同社員が現地を訪れたところ、オフィスの様子や現地スタッフからアラビア語で聞き取った率直な声を通じて、実態をより精緻に把握できたという。伊藤氏は現地訪問を通しての教訓として、オフィスや従業員の様子といった「現場の空気」に触れることが重要だと挙げた。
代理店2社の並行評価に加え、販促や製品教育支援で売り上げ増加へ
こうして代理店の問題を把握した同社は、現在、2社と代理店契約を結んでいる。代理店2社目であるB社は、2023年のアラブヘルス出展時に、ぜひ代理店契約を結びたいと熱心にアプローチしてきた。ただし、こうした申し出は海外ビジネスではしばしばあることで、その内容がどこまで信頼できるかは冷静に見極める必要があると同社は指摘する。同社は申し出を直ちに受け入れるのではなく、A社との契約を独占契約から非独占契約に切り替えた上で、A社・B社の代理店2社体制へと移行した。両社に同一条件を与え、3年間の並行評価期間を設けて、具体的な販売実績で実力を見極めることとした。
同社は2社に対して、販売促進や製品教育も支援した。従来の代理店とのやりとりは、カタログスペックや価格が中心で、製品の使い手である医師や理学療法士のニーズを十分に把握しきれていなかった。また、高機能な日本製機器は、ただ設置するだけでは十分に使いこなせず、製品本来の価値を伝えることが難しい。そこで同社は、現地での対面セミナーやオンラインセミナーを実施し、機器の使い方や理論を医師に直接伝えるとともに、代理店のスタッフが自ら製品説明をできるよう指導を行った。この取り組みを通じて代理店との情報交換が活発になり、エジプト市場における製品の認知度と信頼度も高まった。
その結果、2社体制へ移行する前の2022年のA社単独の売り上げと比べ、2026年1~6月のエジプト全体の売り上げは約5倍に達した。同社は、代理店間の適切な競争に加え、メーカーによる販促支援と製品教育が売り上げ拡大を後押ししたとみている。
こうした経験から、同社は海外市場の開拓にあたり、現地に足を運んで実情を把握すること、言語や文化を踏まえて意思疎通を図ること、代理店の実力を慎重に見極めること、メーカー自らが製品の価値を伝えることが重要だと指摘した。限られた経営資源の中、全ての国でこれらを徹底することは容易ではないが、対面とオンラインを組み合わせながら、どこまで実践できるかが市場開拓のカギになるという。

地域ごとの市場特性を見極め、アフリカ地域全体へ販路拡大を目指す
同社はさらに、エジプトでの取り組みを足がかりに、アフリカ全体への販路拡大を目指している。ただし、アフリカ市場の特性や参入障壁は地域によって異なるとみている。マグレブ地域(注)では、歴史的背景からフランスなどの欧州企業・製品の市場基盤が強い。欧州基準の規制や言語の違いもあるため、これらに対応できる現地パートナーの発掘が欠かせない。他方で、サブサハラ地域では、価格と輸送コストが参入の大きな制約となる。高度な性能よりも、安定して作動することと手ごろな価格が重視され、より安価な中国製やインド製が好まれる傾向にあるという。
このように地域ごとの市場環境は異なるものの、同社はアフリカ市場の成長性に期待を寄せている。伊藤氏は、人口増加と経済発展が進むアフリカでは、医療機器やヘルスケアのニーズが今後大きく拡大するとの見方を示した。新興国では、日本製医療機器への信頼も依然として高い。まずはエジプトの代理店との取り組みを周辺国へ広げ、さらに他のアフリカ諸国へと展開する考えだ。今後は、自社のビジョンを共有できる代理店とともに市場とブランドを築き、アフリカ大陸全体の医療水準の向上に貢献していきたいと述べた。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
山本 彩織(やまもと さおり) - 2026年5月から現職。中東・アフリカ地域の調査業務を担当。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
天神 和泉(てんじん いずみ) - 2015年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援課、ジェトロ静岡、企画部海外地域戦略班(アフリカ担当)を経て、2022年7月から現職。





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