見本市レポート SLUSH 2017

学生たちから生まれたスタートアップムーブメント

ジェトロ参加報告

フィンランド・ヘルシンキ
2017年11月30日(木曜)~12月1日(金曜)

超満員のメインステージ

北欧最大級のスタートアップイベント「SLUSH」が、2017年11月30日~12月1日フィンランドの首都ヘルシンキで開催され、130ヶ国・地域から約2万人が来場した。「飛躍 Next Enterprise(※)」欧州派遣コースの一環として日本のスタートアップ8社がデモブースを展開した。

なぜSLUSHに熱狂するのか?

11月末の北欧の国フィンランドの首都ヘルシンキは極寒だ。そんな厳しい寒さの季節に2万人もの人々が世界中から集まり、熱狂してやまないのがスタートアップイベントSLUSHだ。ヘルシンキのアールト大学の学生がスタートアップと投資家の出会いの場としてムーブメントを創り上げてから、今回で10回目の開催。11月30日、12月1日の2日間の会期中に130ヶ国から約2万人が来場するまで巨大なものになった。来場者の主な属性はスタートアップ企業2,600名、投資家1,500名、ジャーナリスト600名だ。

360度客席のピッチステージ

なぜフィンランドのスタートアップムーブメントがこれほど熱狂的なものになったのか?その理由は技術力に後押しされるエコシステムの存在が大きい。フィンランドはもともとハードウェアエンジニアが多く、研究開発に費やすリソースも高かった。特に1990年代半ばから2010年代までの研究開発費は急速に伸長し、GDPに対する同費比率は2009年には3.75%となり世界トップクラスである (同年EU28ヶ国平均1.84%)。また、人口百万人に対して研究開発部門で働く人数は約1万人で推移し、こちらも世界トップクラスだ。ところが、すべてが順風満帆だったわけではない。かつて携帯電話市場でシェア4割を誇ったヘルシンキに本社を置くノキア社は経営悪化に伴い、2012年に大規模な人員削減を行い、2014年には米国マイクロソフト社に携帯端末事業を売却した。こうした事態に直面した政府は、産官学連携のハイテク開発とテクノロジー関連のイノベーション起業家育成に以前にも増して力を入れ、同時に優秀なエンジニアたちはスタートアップをより加速させた。こうした技術力の高い人材がエコシステムの中で重要な役割を果たし、世界経済フォーラムが発表する国際競争力ランキング「イノベーション」分野では2013年、2014年には1位となり、その後も世界最高水準を維持し評価されている。 

クラブイベントさながらの演出の中でのデモが魅力

SLUSHの特徴は2つある。一つは、会場内のレイアウトやデモブースの構造から音楽やライトアップに至るまで、まるでクラブイベントのような魅力的な演出だ。こうした演出を含め、すべてのプログラムはスタートアップを中心に構成されている。中心的なコンテンツとして、予め選ばれた100社によるピッチコンテスト「The Slush 100 Showcase」が予選としてSLUSH前日に開催される。その予選を通過した50社が、初日にステージでピッチを実施し、10社が勝ち抜ける。さらに、準決勝を経て選ばれた3社が、最終日に決勝戦を行う仕組みとなっている。今年の優勝者は、Altum Technologies社(2016年設立、フィンランド)で、IoT装置からでる超音波を利用したClean-Tech企業だ。ここからわかるようにSLUSHの対象になる分野は必ずしもIT企業やゲーム企業に限らない。コア技術を有するハードウェア、ソフトウェア・アプリケーションなど幅広くチャンスがある。

「飛躍 Next Enterprise」参加スタートアップ企業

もう一つの目玉コンテンツが、世界中のスタートアップによるデモブース展開だ。基本的には1日ごとの交代制で、約270社ものスタートアップがデモンストレーションを行う。今回「飛躍 Next Enterprise」を通じて日本のスタートアップ8社がデモブースを展開した。初日にデモを行ったある日本のスタートアップは「世界各地の様々なイベントに行ったが、投資家の層が非常に厚く、世界No.1のイベントだと感じた。業界の大物や、半導体世界大手企業、モバイル世界大手企業との出会いがとてもよかった」と非常に高評価だった。また、別のスタートアップは「(来場客との)各ミーティングの密度が濃く、スピード感があり、ビジネスに関して積極的な姿勢が感じられた」と、スピード感の速さを評価する声もあった。スタートアップ同士の交流も盛んで、市場からのフィードバックを得ることや、パートナー・アーリーアダプター(オピニオンリーダー)の獲得を目指すスタートアップの参加もお勧めと言える。

※「飛躍 Next Enterprise」は、「シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト」の一環として、経済産業省の委託を受け、ジェトロとデロイト トーマツベンチャーサポート株式会社のコンソーシアムにより、高い技術力や優れた事業アイディアを持つ中小・中堅・ベンチャー企業等を日本全国各地から選抜し、イノベーション先進都市であるシリコンバレーをはじめ、シンガポール、ヘルシンキ・ベルリン、オースティン、イスラエルの5つのエリアに派遣するプログラムです。 

イノベーション促進課 田中井 将人

見本市データ
見本市名 SLUSH 2017
開催期間 2017年11月30日(木曜)~12月1日(金曜)
10時00分~18時00分
初回開催年/開催頻度 2008年/年1回
開催場所 Messukeskus Helsinki, Expo and Convention Center.
出展者数 約270社(日本企業は8社)
来場者数 約2万人(約130ヶ国・地域)
入場料 STARTUP PASS 395ユーロ、CONFERENCE PASS 595ユーロ等
主催者 SLUSH
事務局連絡先 SLUSH Team