特許のバックログ解消を目指し出願・許可手続きを簡素に-政府が規則案公表、パブリックコメント募集-

(ブラジル)

サンパウロ発

2017年08月08日

特許審査の遅延が問題となっているブラジルで、商工サービス省(MDIC)と産業財産庁(INPI)はバックログ(未処理分)を一掃するための規則案を7月31日に公表し、パブリックコメントの募集を開始した。規則案は特許の出願・認可手続きを簡素化するもので、バックログに関しては実体審査を行うことなく自動的に認可する仕組みを定めている。

規則案公表の理由をウェブサイトで説明

パブリックコメントに関するINPIのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますには、規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の公表に至った理由を説明した資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が掲載されている。それによると、6月末時点で特許のバックログは23万1,184件に上り、現在、326人の職員が特許審査業務に従事しているとした上で、特許審査官の処理能力を向上させることでバックログを解消できないか検討している。

2015年には35件だった審査官1人当たりの年間処理件数を、2016年に45件、2017年には55件(見込み)とするなど、INPIは特許審査の効率向上に取り組んでいるが、この年間55件という処理件数を維持した場合でも、2029年にはバックログ件数が34万9,080件に増える。仮に効率を現在の2倍(1人当たり年間処理件数110件)に向上させたとしても、2029年のバックログ件数は18万9,312件となるとして、MDICとINPIは審査官の効率向上だけではバックログを解消することはできないと結論付けている。

この資料では、審査官の増員についても検討している。バックログを解消するには687人の審査官を新規に雇用する必要があるが、それでもバックログを解消するには8年を要し、さらに毎年10億レアル(約350億円、1レアル=約35円)の追加予算が必要となる。また、9年目以降は500人以上の審査官が仕事のない状態に置かれるという問題も発生し、審査官増員という方法も非現実的な解決策だとしている。

そして、以上のような方法でバックログを解消することはほぼ不可能で、特例的な方法を採用せざるを得ず、幾つかの方法を検討した結果、今回の規則案で示した特許出願・許可手続きの簡素化が最も効率的であり、かつ制度への悪影響が最も小さいとの結論に至ったと説明している。

対象と公表されて90日後に特許付与

規則案第2条によると、(1)特許の出願または国内段階移行手続きが規則の公表日前になされていること、(2)規則の公表日から30日以内に特許出願が公開されているか早期公開の申請がなされていること、(3)規則の公表日から30日以内に審査請求がなされていること、(4)出願の係属を維持するための維持年金が期限どおりに支払われていること、(5)産業財産法第35条の規定(実体審査に関する規定)に基づくオフィスアクション(拒絶理由通知)が発行されていないこと、という5つの条件を満たす場合は、簡素化された特許出願手続きの対象となる。対象となった特許出願は産業財産電子公報(RPI)に掲載される。

ただし、第1条補項に規定されているように、医薬品や医薬プロセスに関する出願、分割出願および追加申請の証明は、たとえ上記5つの条件を満たしていたとしても簡素化された特許出願・許可手続きの対象とはならない。

そして第3条には、簡素化手続きの対象となったことが公表された日から90日後に特許が許可されたことが公表されると規定されている。つまり、公表日から90日後に、実体審査を経ることなく特許が出願人に付与され、出願人には産業財産法第10条(発明と見なされないもの)および18条(特許を受けることができない発明)に該当する場合は無効という条件が付された特許証が発行される。

なお、簡素化手続きの対象となることが公表されてから特許が付与されるまでの間に第三者によって情報提供された出願は対象から除外される(第4条)。簡素化手続きの対象から外すよう出願人から申請のあった出願も対象から外される(第4条補項)。また、規則案には明記されていないが、規則案はバックログを解消するための特例措置であるため、規則公表後の特許出願については従来どおり実体審査が行われる。

規則案に関する意見や提案は、専用のフォームワードファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を用いて8月21日まで提出する必要がある。パブリックコメントの募集を伝えるINPIウェブサイト上の記事外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますには、提出された意見や提案をMDICとINPIで検討するとしているものの、募集後の詳しいスケジュールは記載されていない。ちなみに、規則案は公表と同時に発効すると規定されている。

(岡本正紀)

(ブラジル)

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