2017年の最低賃金を9.3%引き上げ月額153ドルに-縫製・製靴業のワーカー約70万人が対象-
(カンボジア)
プノンペン発
2016年11月09日
カンボジア労働職業訓練省は9月29日付省令No.414KB/Br.Kにより、縫製・製靴業に従事するワーカーの2017年の最低賃金を前年の月額140ドルから9.3%引き上げて153ドルにすると定めた。2017年1月1日から適用される。少なくとも約70万人のワーカーが適用対象になるという。
<首相が決定額に5ドルの上乗せを指示>
政府代表14人、雇用者代表7人、労働組合代表7人の計28人で構成される労働諮問委員会は、2016年7月から縫製・製靴業の工場ワーカーの最低賃金の改定について協議してきた。雇用者側は147ドルを提案し、労働組合側は171ドルを要求したものの、同委員会の決定はいったん政府側が提案した148ドルとなった。
しかし、この決定がイット・サムヘン労働職業訓練相に答申された後、フンセン首相から5ドル上乗せするよう指示があり、最終的には153ドル(ただし試用期間中は148ドル)となった。同首相が引き上げを命じたのは今回で3年連続となる。最低賃金の改定は、省令上は縫製・製靴業組合加盟事業所に適用されることになっているが、日系企業においてはその他の業種でもこの決定額に準じているのが実情だ。
なお、10月27日にイット・サムヘン労働職業訓練相は自身のフェイスブックで、縫製・製靴業のみならず、全ての産業セクターに適用される最低賃金の草案を作成していることを明らかにしており、今後、法律や省令によって定められるものとみられる。
<上昇率は2年続けて1桁台にとどまる>
近年の最低賃金の上昇率をみると、2012年61ドル、2013年80ドル(前年比31.1%増)、2014年100ドル(25.0%増)、2015年128ドル(28.0%増)、2016年140ドル(9.4%増)となっている(図参照)。2013年から2015年にかけては大きな上げ幅となったが、直近の2年は1桁台の上昇にとどまっている。
ちなみに、隣国ベトナムでは、賃金評議会が政府に提出した2017年の最低賃金案は、第1地域(日系企業の多いハノイ、ホーチミン近郊)で前年比7.1%増の月額375万ドン(約170ドル)となっている(注)。
<2016年分の改定から最低賃金の算出式を導入>
2年連続で上昇率が1桁台にとどまった理由として、カンボジア政府が労働諮問委員会に提出する最低賃金案の算出に当たって、2016年分の賃金改定から客観的項目に基づく「算出式」を使用していることが挙げられる。具体的には、以下の7項目を考慮することとなっている。これは、1970年に制定されたILOの最低賃金決定条約第3条で求められているもので、1997年改定のカンボジア労働法第107条第3項に反映されていたが、それまで実際の最低賃金決定には用いられていなかった。
○社会的指標
・家計の状況
・物価上昇率
・生活費
○経済的指標
・生産性
・労働市場の状況
・国としての競争力
・当該産業分野での採算性
<今後の政治的要因による引き上げに懸念も>
カンボジア投資基盤整備委員会のソク・チェンダ委員長は10月19日に開かれた第14回日本カンボジア官民合同会議で、「われわれは組合側にあおられて、最低賃金を上げるようなことはしない。今回の金額は、7月から時間をかけて協議し、算出式に基づいて計算した結果だ。今後は賃金上昇に伴い、さらなる労働環境の改善と生産性向上に努めたい」と話した。
これに対し、カンボジア日本人商工会の投資基盤整備委員会は「今回の引き上げ幅は従前と比較すれば合理的なもの」としながらも、2017年の地方選挙、2018年の中央選挙を控え、政治的な思惑で最低賃金を引き上げることがないよう、カンボジア投資基盤整備委員会に申し入れを行った。ただ、ある日系製造業者は「より付加価値の高い製品の製造工程をタイからカンボジアに移転することで、カンボジアの最低賃金が多少上昇しても利益を確保する。これによって、顧客との価格交渉にも耐え得る工場経営をしていく」と語った。
(注)ベトナム国家銀行発表(2016年11月1日)の中心レート(1ドル=2万2,033ドン)を基に算出。
(岸有里子)
(カンボジア)
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