医薬品関連の特許出願に対する重複審査が解消-中南米の制度改定動向-

(ブラジル)

サンパウロ発

2017年05月11日

 ブラジルでは、産業財産庁(INPI)と国家衛生監督庁(ANVISA)の両機関が医薬品分野の特許出願に対する特許審査を重複して実施しており、審査遅延の原因の1つとなっていた。INPIのピメンテル長官とANVISAのバルボーザ長官は4月12日、この重複審査問題を解決することを目的とした新たな規則に署名した。この規則により今後、ANVISAは薬害のリスクなど公衆衛生の観点からのみ審査を行い、特許要件についてはINPIが単独で審査することになる。重複審査が解消されることから、医薬品関連特許出願の審査の迅速化が期待される。

二重審査が審査遅延の原因の1つに

現行のブラジル産業財産法(特許制度に関する規定を含む)は1996年に制定され、2001年の改正で「医薬用の製品および方法に関する特許の付与は、国家衛生監督庁(ANVISA)の事前の同意を必要とする」との条文(第299C条)が導入された。この条文に関する細則などは存在せず、「事前の同意」の範囲が、公衆衛生の観点からの同意を意味するのか、それとも特許性という観点からの同意も含むのかは明らかではなかったが、ANVISAはこの条文における「事前の同意」の範囲に特許要件の審査も含まれるとの解釈の下、独自に特許審査も行っていた。

2012年5月まではINPIが特許可能と判断した医薬品関連特許出願をANVISAがあらためて審査するスキームだったが、同年6月以降はINPIが受理した医薬品関連特許出願をまずANVISAに送付し、ANVISAが承認した特許出願のみINPIがあらためて特許審査を実施するスキームに変更されている。このような特許審査を別機関で二重に実施する特殊な制度は、ブラジルにおける特許審査遅延の原因の1つになっている。日本国際知的財産保護協会が公表している「ブラジル・メキシコ・コロンビア・インド・ロシアの産業財産権制度及びその運用実態に関する調査研究報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」(42ページ)によると、特許出願日からINPIによるファーストアクション(審査結果の最初の通知)までの期間は、医薬品分野で平均12年以上となっている。

新たな規則は公布の60日後に施行

2017年4月12日に大統領公邸で、テーメル大統領らが見守る中、INPIのピメンテル長官とANVISAのバルボーザ長官が重複審査問題を解決することを目的とした新たな規則に署名した。署名式の様子はINPIのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ポルトガル語)でも紹介されている。この規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ポルトガル語)により、今後は、ANVISAは薬害のリスクなど公衆衛生の観点からのみ審査を行い、特許要件についてはINPIが単独で審査することになる。重複審査が解消されることから、医薬品関連特許出願の審査の迅速化が期待される。新たな規則の概要は以下のとおり。

  1. ANVISAの役割:ANVISAは公衆衛生の観点(国内で使用が禁止されている成分が含まれていないかなど)から医薬品関連特許出願の審査を行い、その審査結果をINPIに伝える。特許要件については判断を行わないが、特許出願が統一医療保険システム(SUS)の医薬品供給政策に影響があると考えられる場合には、ブラジル産業財産法第31条の規定「出願公開から審査終了までの期間においては、利害関係人は審査に資する書類および資料を提出することができる」に基づき、特許性に関する資料などをINPIに提出することができる。
  2. INPIの役割:ANVISAの審査後に医薬品関連特許出願が特許要件を満たしているかについて審査する。ただし、ANVISAから承認不可とされた案件については出願を却下する。
  3. 透明性の確保:ANVISAへ送付する案件のリストや処理結果などについて、INPIが発行する公報〔Revista Electronica da Propriedade Industrial(RPI)〕に掲載する。
  4. 早期審査への対応:早期審査対象案件については、早期審査対象案件であるという情報がINPIからANVISAにRPIを介して通知される。
  5. 経過措置:現在係属中の案件も新しい規則に基づいて処理される。
  6. 施行日:公布(2017年4月12日)から60日後に施行される。
  7. INPIとANVISAの連携強化:データベースなどを介して審査関連情報が両機関で共有される。また、医薬品関連特許出願の審査に関する相互理解を深めるワーキンググループを両機関が合同で設置する。

(岡本正紀)

(ブラジル)

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