間接税一元化構想、大きく前進-憲法改正案が上院を通過しGST導入の流れ加速-
(インド)
ニューデリー発
2016年08月09日
間接税を一元化する物品・サービス税(GST)導入に向けた憲法改正案が上院で可決された。ビジネスの阻害要因として常に挙げられてきた「煩雑な税制」の解消に向け、大きく前進する。
<GSTは2017年4月導入目指す>
7月18日から開幕したモンスーン期国会で、長年の懸案だったGST導入の足掛かりとなる憲法改正案が8月3日、全会一致で上院を通過した。複雑な間接税体系を一元化しようとする構想は、約10年間にわたり導入が検討され続けてきたが、具体的な進展がみられなかった。2014年5月に発足したモディ政権はGSTの2016年4月からの導入を目標に掲げてきたものの、下院における審議の遅れや、税収減を訴える各州との調整に手間取り、当初の目標を達成することができなかった。今国会では、中央政府から各州政府に対する歳入補償などについて、与党側が反対勢力への交渉を進め、通過に至った。
政府は憲法改正案通過を契機に、今後GST導入に向けた各種手続きを経て、2017年4月からの開始を目指す。今後の流れについて、大手会計事務所グラントソントン・インディアのジャパンデスク担当の花輪大資氏は「憲法改正案は上院を通過したが、既に下院を通過したものから修正が加えられているため、下院での再可決が必要であり、憲法改正には過半数の州議会の追認も求められる。その後、GST法案の国会と各州議会での可決・成立が必要だ。政府は2017年4月の導入を目指しているが、現実的には非常に厳しい目標であり、2017年度中あるいは2018年度になるのではないかとの見方もある」と話す。税率については今後GST協議会(GST Council)によって決定される見込みで、ジャイトレー財務相は「GST税率は現状より大きく引き下げられるべき」としている(「ビジネス・ライン」紙8月4日)。
<効率的なビジネスが可能に>
GSTが導入されれば、各州の間接税率が同一となり、煩雑を極めた申告・納税手続きが統一され透明性が向上する。物品税は出荷時、サービス税はサービス対価受取時、付加価値税(VAT)は権利移転時など、税目によって課税タイミングが異なり、また相殺手続きも税目によって異なっていた従来の間接税がGSTに一元化され、「供給時点(Point of Supply)」での課税に一本化される。これにより、例えば、最終製品の輸入販売業では、輸入関税のうち12.5%の相殺関税が現在の税制ではコストとなるが、これがGSTに置き換えられることにより相殺控除できるようになる。また、従来の間接税率よりも減税のメリットを享受できる物品などもあるとされており、消費拡大、景気の活性化につながるとみられている。ICICI銀行のチャンダ・コーチャル最高経営責任者(CEO)は「GSTはインドの間接税改革において最重要事項。中期的に消費者は製品価格の低下を享受し、産業界はより効率的なビジネスが可能になる。政府も効果的な徴税ができるようになるだろう」と語る(「タイムズ・オブ・インディア」紙8月4日)。
現在提案されているGSTの仕組みについて花輪氏は「中央政府の税収となるCGST(Central GST)と州政府の税収となるSGST(State GST)を設け、州をまたぐ取引についてはIGST(Integrated GST)が別途課されるが、一定の方法に従って相殺控除される仕組みとなっている。現在の税制では複雑な各税金の相殺控除関係も、GSTの下で簡素なかたちとなると考えられ、仕入れ時に支払うGSTと売上時に受け取るGSTは基本的に相殺控除できるようになる。現在は、中央売上税(CST:Central Sales Tax)のように相殺控除できない税もあり、企業にとってはコストとなっている」と説明する。また、「GSTは現在の間接税制を根本的に変更するものであり、影響は広範囲かつ大きなものになると予想される。特に、(1)サプライチェーン、(2)キャッシュフロー、(3)コンプライアンス、(4)コンピュータシステムへの影響に注意が必要だ」としている。
(古屋礼子)
(インド)
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