下院共和党、オバマケアの撤廃・代替案を公表-関係団体の反応は賛否分かれる-

(米国)

ニューヨーク発

2017年03月16日

 下院共和党は3月6日、医療保険制度改革法(オバマケア)の撤廃と代替に関する法案(米国ヘルスケア法)のドラフトを公表した。オバマケアによる健康保険への加入義務を事実上撤廃し、雇用主や政府プログラムにより保険が付与されない人々に対する税額控除を軸としている。関係団体はそれぞれの立場から賛否を表明しており、一部の共和党議員からも反対の声が上がっている。

<保険の加入義務を撤廃する一方、税額を控除>

 下院共和党は3月6日、オバマケアの撤廃と代替に関する法案(米国ヘルスケア法)のドラフト(注1)を公表した。法案は広範な内容を含むが、保険未加入の個人・雇用主への罰金を廃止して保険加入を個々人の選択に委ねる一方、雇用主や政府プログラムにより保険が付与されない人々に対しては、年齢や家族規模に応じて税額控除を提供することを軸としている(添付資料参照)。

 

 オバマケアの財源確保に向けて導入された、処方薬や医療保険の手数料、医療機器への課税は撤廃する。他方、既往症を理由とした保険加入の拒否や保険料の増額、被保険者が生涯を通じて得られる医療給付額への上限設定を保険会社に禁じる措置など、オバマケアの中でも国民の評価が高かった措置については維持する内容になっている。26歳までの子供を両親の加入する保険の対象に含める措置も維持される見込みとなった。

 

 ただし、本法案は財政調整に基づく法案(注2)として作成されていることから、法案内容は予算に関連するものに限られている。このため、州を越えての保険販売を可能にする制度変更など、共和党が実現を望む医療改革の一部の内容は含まれていない。

 

<医師会や退職者協会は反対の姿勢>

 関係団体は、それぞれの立場から法案への賛否を表明している。米国医師会(AMA)のジェームス・マダラ会長は「税額控除を、(オバマケアによる現行制度のように)所得に反比例させるかたちではなく、(法案が提案するような)年齢に応じたものとすれば、未保険者の大幅な増加につながる」とし、現状の法案には賛成できない、と述べた。米国病院協会(AHA)も、メディケイド(低所得者向け医療保険)の再構築はサービスの大幅な縮小を招くとともに、医療提供者の給与を低下させるとの理由から、現状の法案には賛成できない、としている。

 

 また、高齢者の業界団体である全米退職者協会(AARP、注3)は、オバマケアが課した高所得者に対するメディケア付加税の追加課税の撤廃が法案に盛り込まれことを指摘し、この追加課税が撤廃されれば、高齢者向け保険であるメディケアの支払い能力が将来的に低下するとし、法案に反対する姿勢を示した。AARPは、ブランド医薬品に対する課税の撤廃にも反対している。

 

<医療機器関連業界は法案を支持>

 他方、医療機器関連企業が加盟する業界団体の医療機器製造者協会(MADA)や先進医療技術工業会(AdvaMed)は、医療機器に課される売上税(2.3%)の撤廃が盛り込まれたことを評価し、法案支持の声明を出している。

 

 なお、保険会社の業界団体である米国医療保険プラン(AHIP)は、医療保険に関する手数料の撤廃などに賛意を示しつつ、税額控除が所得ではなく年齢のみに基づいていることなどを懸念として挙げ、法案全体に対する判断は留保している。

 

<共和党の財政保守強硬派は対決姿勢>

 ケビン・ブレイディ下院歳入委員長(共和党、テキサス州)は「下院共和党はトランプ大統領の要請に応え、この欠陥のある法律(オバマケア)を撤廃する」と述べ、下院共和党案が大統領の関心事項を反映したものであることを示した。トランプ大統領も、本法案を「われわれの素晴らしい新たな医療法案(our wonderful new Healthcare Bill)」と呼び、議会指導部とともに可決を目指している。

 

 他方、財政保守強硬派の共和党下院議員で構成される議員連盟フリーダム・コーカスは、「われわれが望んでいるのは『オバマケアライト(軽量版オバマケア)』ではなく、オバマケアの完全な撤廃だ」との声明を出し、本法案への反対を表明している。税額控除が盛り込まれていることや、高額医療保険プラン(キャデラックプラン)への課税を維持していることへの批判が強い。上院でも、ランド・ポール上院議員(共和党、ケンタッキー州)などが、下院フリーダム・コーカスと共闘する姿勢をみせている。

 

 本法案は3月9日、所管の歳入委員会とエネルギー・商業委員会をそれぞれ通過した。予算委員会を通過後、下院での審議にかけられる見込みだ。

 

(注1)ドラフトは、下院の歳入委員会とエネルギー・商業委員会がそれぞれ公表した2つの法案で構成されている。

(注2)上院では、審議時間を制限するルールが存在せず、少数党による議事妨害(フィリバスター)が可能。ただし、財政調整に基づく法案は、議事妨害を受けることなく過半数の賛成で可決することができる。

(注3)米国有数のロビー団体の1つ。約3,800万人の会員を持つ。

 

(鈴木敦)

(米国)

ビジネス短信 d40ca56cc2917a73