シンガポールやマレーシアが2014年から地域累積の対象外に−GSPの原産地規則が改正−
欧州ロシアCIS課
2013年07月11日
EUの原産地規則が改正され、2014年1月1日から適用される。特に一般特恵関税(GSP)の地域累積に関連する規定に変更があり、地域累積のグループI(アジア)からシンガポールが除かれ、ミャンマーが追加された。また、地域累積の適用条件として「輸出時点で受益国であること」との規定が設けられたため、2014年1月からマレーシアやブラジル、2015年1月からはタイやエクアドルについても地域累積制度を活用できなくなる。
<地域累積のグループが変更>
今回の欧州委員会実施規則(530/2013)は関税法(2913/92)およびその実施規則(2454/93)を改正するもので、特にGSPの原産地規則における地域累積に関する条項(2454/93の86条)の変更は、企業活動への影響が大きいと予想される。改正のポイントは、地域累積グループの改変と地域累積の適用条件の追加〔1条(6)〕だ。
地域累積とは、A国原産の材料がB国で作業または加工される場合、A国の原材料もB国原産としてカウントできるという制度だ。EUでは累積に組み込める国を4つにグループ化して決めており、その地域グループ内の国の間でのみ地域累積制度が運用される(注1)。GSPの優遇税制を受けるためにはGSP対象国の原産と認定される必要があるが、地域累積を活用することで原産性を獲得することが容易となる。例えば、ベトナムからEUに輸出するある製品のGSPの原産地基準が、付加価値50%だったとする。通常、累積規定がなければ、ベトナムだけの付加価値で50%以上の原産性を満たす製品でなければGSP対象とはならない。しかし、地域累積を活用すれば、同じグループIのカンボジア原産の付加価値20%の産品をベトナムで付加価値30%分の作業・加工をした場合、カンボジアの20%もベトナム原産と見なされ、ベトナムでの付加価値30%にカンボジアでの付加価値20%も積算し、合計で付加価値50%を満たすことができる。こうして同製品がベトナムからEU向けに輸出される場合、GSPの対象となる仕組みだ。
<適用には新たな条件も>
今回の改正ではグループIからシンガポールが除外され、ミャンマーが追加された(表参照)。また、地域累積適用の条件として「EUに製品を輸出する時点で、累積の対象となる国は受益国であること」が新たに追加された。2014年1月1日以降は受益国、つまりGSPの対象として認定されていない国は、地域累積の対象とはならないことになる。2012年11月に発効し2014年1月1日から適用されるGSP新規則(注2)により、マレーシアやブルネイ、ブラジル、アルゼンチンなどが特恵の対象から外れることが決まっている(2012年11月2日記事参照)。このため、2014年初からマレーシアやブラジル、2015年初からはタイについても、同国原産のものを地域累積に組み込むことができなくなる。つまり、マレーシア原産の原材料をベトナムに持ち込んで作業・加工しても、2014年初以降はベトナム原産と見なされなくなるため、原産地基準を満たすための条件が厳しくなる。
<対応迫られる進出企業>
現在、「チャイナプラスワン」としてアジア地域への日本企業の進出は活発で、生産拠点を構える企業も多い。これらの企業の中には地域累積を活用してEUに輸出し、GSPの恩恵を受けている企業も少なくない。今後、マレーシアやタイなどが地域累積の適用から外れる影響は大きく、同国の地域累積を活用していた、あるいは活用を検討していた企業は対応が必要だ。場合によってはサプライチェーンや企業戦略の大幅な練り直しを迫られることにもなりかねない。
なお、ミャンマーについては、2013年4月の制裁措置解除(2013年4月24日記事参照)に続き、6月29日にGSP措置の再開を定めた規則が官報に掲載された。7月19日に発効するが、適用は2012年6月13日にさかのぼる(注3)。こういった動きもあり、ミャンマーもGSPの地域累積の対象にも追加されたものとみられる。
(注1)EUの地域累積のグループは4つある(表のとおり)。なお、グループIとIIIは、一定の条件を満たす場合、グループ間の累積も可能となる。詳細は「EUのGSP原産地規則ガイド(仮訳)」を参照のこと。
(注2)新GSP規則については「EUの一般特恵関税(GSP)制度改正とその背景〜いかに対応するか〜」を参照。
(注3)ILOが2012年6月13日にミャンマーの労働環境改善を認める決議を行い、これがEUの対ミャンマーのGSP復帰の契機となったため、適用は同日まで遡及(そきゅう)するとされる。
(水野嘉那子)
(EU・ASEAN)
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