GSP失効までの発効は時間的に困難−タイ・EU、FTA交渉開始に合意(1)−

(EU、タイ)

バンコク事務所

2013年03月15日

タイとEUとは2013年5月に自由貿易協定(FTA)交渉を開始する。タイは2015年1月にEUの一般特恵関税制度(GSP)対象国から外れる可能性が高いことから、2年以内の妥結を目指す。しかし、交渉範囲が広いこと、特にサービス分野の開放をめぐり激しい交渉が行われる可能性があること、交渉に加えて発効手続きにもかなりの時間がかかることから、2014年末までの発効は絶望的だ。2回に分けて報告する。

<妥結までには長時間かかる見込み>
インラック首相は訪欧し、3月6日に欧州委員会のバローゾ委員長と会談、タイ・EUのFTA交渉開始に合意した。タイ側では対EUのFTAの交渉枠組みについて、2012年12月4日の閣議を経て2013年1月30日に国会承認を得ていた。タイ側交渉団を率いるオラーン経済担当首相顧問・通商代表は、5月に第1回交渉をベルギーのブリュッセルで行い、以後、四半期に1度の頻度で交渉し、早期妥結を目指すとした。「ネーション」紙(3月7日)も「タイ・EU FTAを2年以内に」と題し、交渉開始のニュースを報じた。タイはEUのGSP対象国から2015年1月に外れる可能性が高いことから、タイ政府は早期妥結を目指す。同紙によると、タイEUビジネス評議会は「2015年までにFTAの署名をしなければ、タイのGDPで1.2%分成長を妨げる」と述べているという。

しかし、タイ・EU FTA(TEFTA)を、GSP対象国から外れる2015年1月までに発効させることは困難な状況だ。EUはTEFTAについて「韓国とのFTAをモデルにする」といわれており、その場合、交渉範囲には物品貿易に加え、非関税障壁、貿易救済/補助金のほか、サービス貿易、投資、知的財産、貿易の技術障壁(TBT)、衛生および植物衛生措置(SPS)、政府調達、税関手続きの円滑化、競争法などにまで広がる可能性が高く、妥結までには相当の時間を要することが容易に想像できる。

ASEAN加盟国としてEUとのFTA交渉の先陣を切ったシンガポールは、2010年3月に交渉を開始し、2年9ヵ月の交渉を経て2012年12月16日に妥結、2013年春の仮調印を予定している。しかし、発効までの道のりはまだ長い。仮調印後も、EUの公用語(注)全てに翻訳し、リーガルチェックを経て、EU閣僚理事会で採択し「署名」に至る。その上で、欧州議会の同意を得て実質的な発効である「暫定適用開始」となる。この時点でEU加盟国が権限を有している特定事項以外は発効し、FTAのほぼ全ての規定の適用が開始される。「正式発効」にはさらに全加盟国の批准を待たねばならない。韓国は現在「暫定適用開始」の段階。仮調印後からこの段階までで2年弱を要していることから考えると、シンガポールですら暫定適用開始までの道のりは長い。そのため、タイがGSP対象外となる2015年1月までにTEFTAを発効させることは非常に困難といえる。

<サービス分野の自由化でタイに警戒感>
タイとEUとのFTAについて、タイ側での効果と影響に関するフィジビリティー・スタディー(F/S)調査は、タイ政府の委託を受けたタイ開発研究所(TDRI)が、2010年に行っている。TDRIは、「タイはEUとのFTA交渉に入るべきだ」とした上で、「(協定は)より広範囲で深く、より良いものを目指すべきだ」としている。

物品貿易については、特に「農産品と農産物加工品の自由化を推し進める」とし、タイ産品のEU市場獲得に資する協定にするよう政府に助言するとともに、サービス貿易についてはポジティブリスト方式での自由化が望ましいとする。ポジティブリストは、締約国が自由化を行う分野を指定する約束方式で、ASEANや加盟各国の多くはこれまで同方式による自由化を行っている。一方、ネガティブリストは締約国が自由化義務の例外分野を指定する方式で、一般的にネガティブリスト方式の方がより自由化に資するといわれる。EUは、タイに対し物品以上にサービス分野の自由化を強く迫ってくると予想され、タイは警戒感を強めている。

特に、サービス分野自由化において、a.少数のサービス提供者によって支配される産業(通信、金融、エネルギーなど)、b.多くの小事業者が関係する産業(証券サービス、生命保険以外の保険サービス、インターネット・サービス・プロバイダー、税関貨物取扱人、運送業者など)、c.特急(速達)郵便業務、d.通信社サービス、e.環境サービス(汚水処理など)、f.エネルギー、石油・天然ガス、g.専門家サービス、の7分野を取り上げ、EUに市場開放を行った場合の影響を分析している。そのうちb.およびe.は既に競争が存在しており、EU資本が過半の投資をした場合でも影響は小さいとしている。

また報告書は、EUに対し環境保護に加えタイ製品の品質・標準を向上させるため、能力開発に関する技術協力を求めるべきだとしている。さらにEUが要求する標準、生産技術、標準化された品質による管理システムに関する情報について、一般がアクセスできるようITシステムの構築を提案している。

国内事業者保護の観点からは、農業・農業協同組合銀行、輸出入銀行、中小企業向けのSME銀行などが中小規模の事業者や農家に対し、ローンの拡大と保証提供することを提案している。また影響を受ける事業者に対しては、より最新技術を備えた設備の導入を促すため、旧式設備の減価償却の加速を提案している。

(注)EUの公用語は加盟国で使われている23言語。

(助川成也)

(タイ・EU)

GSPが失効すれば影響は広範囲に−タイ・EU、FTA交渉開始に合意(2)−

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