新興政党が躍進、2大政党は後退−安定政権樹立は困難を極める見通し−

(イタリア)

ミラノ事務所

2013年02月28日

2013年2月24〜25日の議会総選挙で、ピエル・ルイジ・ベルサーニ書記長〔民主党(PD)〕率いる中道左派連合が下院(定数630)では最大の得票率を獲得した。しかし、PD単体での得票率は、既存政党を強く批判し躍進した新興政党「5つ星運動」の得票率を下回った。上院(定数315、特別上院議員を除く)ではPDが最大得票率を獲得したが、中道左派連合全体でも過半数(158議席)には届かず、安定政権づくりへの道筋がみえない不安定な状況に陥っている。

<下院で新興政党「5つ星運動」が単独では最大得票率>
投票は2月25日15時(現地時間)に締め切られ、即日開票された。在外投票の開票作業が26日昼過ぎに終了して結果の全容が判明した。

投票率は上院が75.1%、下院が75.2%となり、2008年に行われた前回総選挙時(上院80.4%、下院80.5%)に比較していずれも5.3ポイント低下した。投票期間中、イタリア北部は雪、中南部は雨という悪天候が有権者の出足を鈍らせたこともあるが、政治への関心が年々薄れていることを指摘する声もある。

下院では、事前の報道で優勢が伝えられていた中道左派連合が、最大得票率29.5%を獲得(表参照)。下院では最大得票率を獲得した政党連合に340議席が与えられるため、過半数の議席を得た(在外投票で獲得した5議席も加算され、最終的には合計345議席)。

しかし、コメディアンのベッペ・グリッロ氏が率い、既存政党への批判を強めて勢力を拡大した「5つ星運動」も、初めての国政選挙で25.6%の得票率を獲得し、中道左派連合に3.9ポイント差まで迫った。5つ星運動は中道左派連合の中で最大の政党であるPDの得票率25.4%を上回っており、単独でみれば下院で最大得票率を得たことになる。

また、シルビオ・ベルルスコーニ元首相が率いる中道右派連合も得票率29.2%を獲得、中道左派連合との差はわずか0.3ポイントとなった。事前の報道では中道左派連合が中道右派連合を突き放すものとみられていたが、右派連合が選挙戦後半に追い上げをみせた。

各党の得票率と獲得議席数

<上院は過半を制す政党・政党連合なし>
上院では、従来共産主義政党が強い北部の工業地域のエミリア・ロマーニャ州やPD以外の左派が地盤とする中部でPDが票を集め、単独で27.4%の得票率となった。2位の中道右派連合で最大政党である「自由の人民(PdL)」にも5.1ポイントの差をつけた。しかし、政党連合ベースでみると、中道左派連合の得票率は31.6%、中道右派連合は30.7%でその差は0.9ポイントしかなく、十分な差をつけたとは言い難い結果となった。

「5つ星運動」は上院でも23.8%の得票率を獲得、得票率ではPdLを上回り、PDに次ぐ2番目の政党となった。また、マリオ・モンティ前首相が率いる政党「イタリアのためモンティとともに」は得票率9.1%と振るわず、上院では過半数を得た政党や政党連合はなかった。

今回の選挙でPDは、得票率を上院では前回選挙時(2008年)の33.7%から27.4%へと6.3ポイント落とした。PdLも同様に、前回の38.2%から22.3%へと15.9ポイント落としており、PD以上に国民からの支持を失っている。こうした既存の2大政党が今回の上院選挙で落とした合計22.2ポイントは、5つ星運動が獲得した得票率23.8%にほぼ匹敵し、下院でもほぼ同様の傾向となっている。

社会投資研究所(CENSIS)によると、投票直前の2月22日に5つ星運動がローマで行った政治集会に集まった人々をサンプル調査した結果、同日時点で5つ星運動に投票することを決めていた人の約6割が、「同党のような新しい政治活動が、現在の危機に対し解決策を与える」と回答し、残りの約4割は「体制への抗議の意思を示すために同党に投票する」と回答した。その多くは若者だったという。

また、同集会に参加していた人のうち、10.5%の回答者が前回選挙(2008年)でPdLに投票したと回答。同様に前回PDに投票したと回答した人は25.3%に上った。さらに回答の中では前回選挙で棄権した人が27.5%と最も多く、既存政党や現体制への不満が、5つ星運動への支持に転じたかたちだ。

<安定政権樹立の道筋みえず>
中道左派連合のベルサーニ書記長は2月26日の記者会見で、「政権樹立を保証できないわれわれが勝ったとはいえない」と述べた。上下両院で中道左派連合が最大の議席を獲得したが、上院では過半数の議席が獲得できず、安定政権が確立できない状況に対しては、落胆の色を示した。

同書記長は、モンティ前政権時の改革路線を一部引き継ぎつつ、雇用対策を中心テーマに掲げて選挙戦を展開していた。具体的には、公的機関からの支払い遅延にあえぐ中小企業の救済(5年間で合計500億ユーロ)、遅れている学校や病院の安全性にかかわる工事や、国土開発にかかる公共事業の実施(軍事費などの削減によって3年間で750億ユーロを捻出)などの企業支援が雇用拡大につながるとしていた。南部に立地する企業の若者や女性の雇用に対するインセンティブや税の免除措置の導入なども視野に入れていた。

経済政策については、EUの財政健全化路線を尊重。また、経済成長のために再生可能エネルギー政策の見直し、廃棄物リサイクルの推進、ブロードバンドや情報通信技術革新のためのインフラ整備を実施し、イノベーションと研究開発の進展に取り組むなどとしていた。今後はこうした公約を軸に、各党と政策ごとの連携を模索していく必要があるとみられる。

しかし、同書記長は、現時点でPdLとの大連立については否定している。また、躍進を遂げた5つ星運動は公約の中で、政府支出に対して厳しい措置を講じ、債務削減を実施することを掲げているが、EUの財政健全化策の手法に対しては反対の姿勢。既存政党への批判を全面に打ち出していることから、中道左派連合の政権樹立は困難を極めることになりそうだ。

(三宅悠有)

(イタリア)

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