EUに最大1,000億ユーロの銀行支援要請へ

(EU、スペイン)

マドリード発

2012年06月12日

スペイン政府は6月9日、住宅バブルの不良債権問題でスペインの金融システム不安が高まる中、国内銀行の資本増強を目的とした資金支援を近くEUに要請する方針を前倒しで発表した。ユーログループ(ユーロ圏財務相会合)もこの発表を受け、最大1,000億ユーロの支援を行うことで合意したとの声明を出した。しかし、週明け11日の国債市場では17日のギリシャ議会の再選挙への不安を背景に、スペイン10年物国債とドイツ国債との利回り格差(スプレッド)が依然520ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)台の最高水準を維持しており、市場の不安払拭(ふっしょく)には結び付かなかった。

<財政収支には「影響せず」>
支援は欧州金融安定ファシリティー(EFSF)および7月に発効する予定の欧州安定メカニズム(ESM)から受け、スペイン政府が金融再編基金(FROB)を通じて各支援行に注入する。

1,000億ユーロの支援枠は、8日にIMFが前倒しで発表した報告書「スペイン金融システムの安定性評価」(PDF)で推定した必要額の370億〜700億ユーロを充足できる規模で、政府も「最悪シナリオに対してさえも十分すぎる額」と評価している。

利払いの財政収支への影響について政府は、支援行には利子を上乗せして融資するため、財政赤字が悪化することはないと説明している。また、公的債務残高のGDP比は2012年に79.8%から90%近くまで上昇し、フランスや英国の水準に並ぶとみられる。

<正式申請は6月21日ごろか>
今回の発表は、ギリシャ議会再選挙を1週間後に控え、もう1つの不安要素のスペインの金融システムに対する懸念が頂点に達した中で行われた。国内第4位の金融機関バンキアに注入が必要な公的資金額が235億ユーロと巨額だったことが判明し、スペイン10年物国債の利回り格差(スプレッド)は5月30日には538.77bpと最高値に達し、過去1ヵ月間で100bp以上急騰した。国債利子は6%台とほぼ持続不可能な高い水準で推移、6月7日には格付け会社フィッチがスペイン国債の格付けをAから一気に3段階引き下げトリプルBとしていた。

欧州域内ではスペインのEU資金要請はほぼ既定路線となっていたが、欧州の他の重債務国(GIIP)のような全面的な財政・金融介入を回避するために、金融機関への直接資金支援(現行のEFSFの枠組みでは不可能)を主張するラホイ政権と、支援に際してはスペイン政府が資金要請の主体となり、EU側は経済全般について厳格な介入を行うべきとの立場をとるドイツなどとの間で、支援の方法をめぐる合意形成に時間がかかった。

最終的には米国政府などからの圧力もあり、金融セクターに限った支援・介入で妥協された。なお、スペイン政府の正式な支援要請は、外部監査機関が現在進めているスペイン金融セクターのストレステスト結果が発表され、資本必要額が明らかになった段階で、6月21日のユーログループもしくは22日のEU経済・財務相(ECOFIN)理事会のタイミングになるといわれている。

<ほかの重債務国に比べ「軽微な介入」>
スペインは欧州債務危機以降、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに次いで4番目の支援要請国となる。上記3ヵ国が財政・金融を含む全面的支援で、欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)およびIMFの三者代表団(トロイカ)の介入を伴うものだったのとは対照的に、スペインの場合は金融部門(民間)に限定した支援だ。そのため当地報道では、「軽微な」「甘い」「屈辱なき」介入と呼ばれている。ラホイ首相やデ・ギンドス経済・競争力相は「介入ではなく、資金支援枠」とさえ主張する。

確かに限定的な介入であるため、原則的に金融以外の財政政策や構造改革における政府の主導権は失われない。支援の見返りとしてスペイン政府が義務付けられるのは、金融部門のみを対象としたセクター再編や構造改革に限られるはずだ。また、規則により特定セクター支援が認められていないため、IMFの資金は入らない。

しかし、ユーログループの声明(PDF)では「スペインは既に本格的な緊縮財政や労働市場改革、金融機関の資本増強対策を実施済み」と認めつつも、「マクロ経済不均衡の是正を目指した財政政策と構造改革の進捗について、緊密かつ定期的にフォローする」とくぎを刺している。

介入は金融部門だけとはいえ、付加価値税(VAT)の引き上げや年金支給開始年齢の引き上げ前倒しをはじめとする欧州委員会からの緊縮財政勧告は、実質的には今後より強い拘束力を伴うようになるとみられている。

<市場の不安沈静化せず>
支援要請発表に対し、スペイン銀行協会(AEB)や一部経営者団体は「これでスペイン経済に対する疑念が晴れる」と評価した一方、最大野党の社会労働党(PSOE)のルバルカバ書記長は「(EU支援は)EUに返済すべき借金、政府債務であり、さらに再成長にとって十分な規模かどうかは疑問」と述べた。

なお、週明け11日の国債市場では、ドイツ国債とのスプレッドがいったん落ち着いたものの、終値は521.37と支援要請の発表前の水準に逆戻りした。支援の内容・条件の詳細が不明確なことや、17日に控えるギリシャの再選挙への不安が影響したとみられる。

(伊藤裕規子)

(スペイン・EU)

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