欧州委、銀行救済に向けた指令案を発表−破綻処理に備えた基金創設を提案−

(EU)

ブリュッセル発

2012年06月11日

欧州委員会は6月6日、EU域内共通の銀行救済と破綻処理に関する指令案を発表した。銀行破綻に対応するため、各国が必要に応じて資金を融通し合う仕組みや、EUレベルでの銀行監督強化などを提案している。また、銀行破綻に際しては早期の介入、解決を促している。ファンロンパウ欧州理事会(EU首脳会議)常任議長は6月28〜29日に開催される欧州理事会で、金融セクターの規制強化に向けた詳細レポートを発表する。

<「銀行連合」創設へ第一歩>
欧州委の発表によると、欧州委は2008年10月〜11年10月の金融機関への国家補助として、総額4兆5,000億ユーロを承認したが、このうち実際に08〜10年に使われたのは1兆6,000億ユーロだった。これにより大規模な銀行破綻や経済混乱は回避できたが、納税者に負担を課す結果となり、大手銀行の経営悪化への対策は先送りされていた。

今回の指令案(PDF)は、ここ数年の銀行破綻による巨額な公的資金投入の再発防止が狙いだ。欧州委が10年10月に発表した指針(PDF)に基づいて検討してきた。

指令案はまた、破綻機関の再編・破綻処理コストは納税者ではなく、破綻銀行や債権者の負担となることを強調した。欧州委のミシェル・バルニエ委員(域内市場・サービス担当)は「欧州債務危機は納税者に負担を強いてきた。将来の銀行危機に適切に対応できるように各国当局が仕組みを作らなければならない。そうでないと、再び納税者に負担を課すことになる」と述べ、今後は銀行と債権者が負担すべきとした。

欧州委のバローゾ委員長は、今回の指令案を銀行破綻の影響から納税者と経済を守るものと位置付け、「銀行連合(Banking Union)」の創設に向けた一歩になると強調した。バローゾ委員長は12年のヨーロピアンセメスターの下での各国の経済政策に対する勧告を5月30日に発表した際、銀行連合構想に言及し、ドイツのメルケル首相との会談でも同構想について議論していた。ただし、同構想に対しては英国が猛反発している。

<準備・予防、早期介入、解決の3段階で対応>
指令案は、「準備・予防」「早期介入」「解決」の3段階で構成されている。

準備・予防段階では、主に以下の4つを提案。

(1)危機に備えEU加盟各国の銀行は復旧計画を策定する。復旧計画では、銀行は金融機関単体またはグループ単位で、財務状況が悪化した場合に対処するための計画をつくる。
(2)各国の当局には解決計画の策定を求める。解決計画は、銀行の破綻時に当該銀行の事業を承継または解体を可能にするために必要となる。
(3)これらの計画策定で何らかの障害があれば、当局が銀行に対し、法律上あるいは運用上の仕組みを変えることを要求できる権限を与える。
(4)銀行間の相互資金援助などを目的としたグループを結成すること。

2番目の早期介入段階では、銀行破綻の危機的状況になる前に、各国当局に対し、早期介入に必要な権限を与える。例えば、銀行の経営陣の解任、回復計画の特別管理者の一定期間任命、緊急対応を行うための株主総会開催などの権限を与える。権限は資本要求義務に違反するか、その恐れがある場合に発動される。

3番目の解決段階は、準備・予防、早期介入段階で問題に対処できなかった場合で、主に以下の4つを提案した。

(1)当局が株主の同意なしに破綻銀行をほかの銀行に売却できるようにする。
(2)当局が破綻銀行のビジネスの全部または一部を一時的にブリッジバンク(受け皿銀行)に承継する。
(3)当局が破綻銀行のバランスシートをきれいにするために、不振事業や不良債権を切り離し、不良債権処理のための機関(バッドバンク)に承継する。
(4)債務削減を可能にする権限を当局に与える(ベイルイン)。破綻銀行の全ての株式を削減し、債務を株式化し、一時的または永続的に業務が継続できるようにする。公的資金を投入しないで、株主および債務者の負担を前提としたもの。

<各国の銀行に資金を拠出させる>
指令案は「解決基金」の創設が柱になっている。破綻処理のコストは株主および債権者の負担となるが、それでも損失負担が十分でない場合を考え、欧州委は基金の創設を提案した。各国の銀行が負債の一定割合の資金をプールし、資金難に陥った際に利用できるようにする。基金は一時的なブリッジバンクの資本金や短期ローンなどに充てるなど、事業再編と問題解決を促すための資金とし、銀行救済には直接用いないとしている。

欧州委は各国当局に対し、破綻処理に備えてこの基金を設置し、銀行から資金を拠出させ、向こう10年で救済対象となる預金額の1%を基金に積み立てるよう求めている。欧州委によると、23年(指令発効のタイミングによっては24年)までに基金はEU27ヵ国全体で約1,000億ユーロに達する見込み。基金だけでは対応できない場合には銀行に追加拠出を求める。また、他国の基金から資金を借りられるようにする。

<15年1月に指令案施行の方針>
欧州レベルでの単一の欧州監督当局が存在しない中で、多国間で事業展開する大手銀行の経営悪化に対応するのは困難だとの考えから、欧州委は各国の関係当局間の協議・協力を求めている。

具体的には、欧州銀行監督機構(EBA)の管轄の下に解決グループ(カレッジ)を設置し、EUレベルでの銀行監督強化を図る。解決グループには、グループ内の各企業に関係する破綻処理当局が参加する。解決グループは破綻処理計画の策定に責任を持ち、危機時に情報交換と破綻処理の措置の協調を行う場を提供する。

また、欧州委は既に11年1月、EUレベルでの銀行監督強化のため、欧州銀行監督機構(EBA)、欧州証券市場監督局(ESMA)、欧州保険・年金監督機構(EIOPA)を設置している。EBAは主に「準備・予防」と「早期介入」の段階で調停役として介入し、各国当局との共同決定などを調整する。

欧州委は今回の提案により、共通の枠組みを設け、あらゆる種類の銀行のリスク管理に対応できるようにすることで、EUレベルでの銀行監督強化を図る考えだ。

指令案は、EU加盟国によって構成されるEU閣僚理事会と欧州議会の承認が必要となる。両者の承認を経て施行されるのは15年1月以降、また銀行からの資金拠出などの対策の実施は18年1月以降になると欧州委は見込んでいる。

(小林華鶴)

(EU)

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