中米5ヵ国とのFTAを一本化−北部3ヵ国向け自動車輸出に追い風−

(中米、メキシコ)

メキシコ発

2011年12月05日

政府は11月22日、中米5ヵ国(グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ)と単一の自由貿易協定(FTA)を締結した。従来は対コスタリカ(1995年発効)、対ニカラグア(98年発効)、対中米北部3ヵ国(グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、2001年発効)の3つの協定が存在したが、一本化することで協定運用の利便性を高めるとともに、従来は関税削減の例外とされていた品目について、新たな関税削減スケジュールが定められた。中米北部3ヵ国の自動車輸入関税が段階的に撤廃されることになり、中米地域への自動車輸出の追い風になりそうだ。

<原産地規則の把握と運用が容易に>
メキシコ・中米単一FTAは08年から交渉が始まり、合計7回の交渉を経て11年10月20日に実質合意に達していた。今回、メキシコと中米5ヵ国の貿易担当相により、11月22日にエルサルバドルの首都サンサルバドルで協定文書への署名が行われた。

このFTAは全21章からなり、モノの貿易、投資、サービス貿易、政府調達、知的財産権、協定運用、紛争解決手段などの分野からなる。従来の3つの協定が一本化されたことで新たに生まれる主なメリットは以下のとおり。

(1)関税削減対象品目の拡大
(2)原産地規則の統一と更新による利便性の向上
(3)原産地累積の拡大

(1)では、従来の協定で関税削減の例外とされていた品目についてメキシコと中米諸国の間で再度交渉が行われ、いくつかの品目が新たに関税削減の対象に加えられた。例えば、中米北部3ヵ国とのFTAでは一部の鋼材や車両総重量5トン以下の自動車が例外品目とされていたが、今回の単一協定では今後関税が段階的に削減される品目として盛り込まれた。

(2)については、これまで3つの協定では、それぞれ原産地規則が異なっていた。しかし今回の一本化で、98%の関税品目(タリフライン)について、品目別原産地規則(PSR)が統一された。これにより、中米向けに輸出するメキシコ企業にとって、特恵輸出のための原産地規則の把握と運用が容易になった。

また、PSRの統一交渉の過程で、原産地規則そのものが現在の状況に応じて更新されているため、一部の品目については原産地規則の明瞭化や簡素化につながる。

テレビの原産地規則を例に挙げると、コスタリカとのFTAが発効した1995年はブラウン管型(CRT)テレビが主流だったが、現在は液晶(LCD)、プラズマなどの薄型がほとんどだ。古い協定の原産地規則は現在の技術に追い付いていないため、テレビの原産性を判断する際に不明瞭な点が多かった。

今回の単一協定で、テレビの原産地規則は、サイズや技術にかかわらず「4ケタレベルの関税分類変更」(注)に統一され、液晶パネルやプラズマ・ディスプレーを日本などアジアから輸入しても、メキシコで組み立てれば原産品になることが明確になった。

(3)については、同一FTAの加盟国が増えれば増えるほど「原産地」が累積され、原産品になる可能性が高まる。従来は中米北部3ヵ国とニカラグア、コスタリカで別協定になっていたため、エルサルバドル原産(糸からエルサルバドル産)の織物を用いてニカラグアで縫製した衣類は、原則としてメキシコの特恵関税を享受できなかった。今後は合計6ヵ国での生産が原産工程として累積可能になるため、主に中米側の対メキシコ特恵輸出が容易になると思われる。

<自動車の関税率は9年以内で段階的に撤廃>
中米との単一FTAの成立でメキシコに大きな意味を持つのは、中米北部3ヵ国の対メキシコ自動車関税の撤廃だろう。従来の3協定のうち、対コスタリカFTA、対ニカラグアFTAでは自動車の関税が相互に撤廃されているが、対中米北部3ヵ国FTAでは、車両総重量5トン以下の自動車が関税削減の例外品目となっていた。

中米には自動車産業が存在しないため、中米北部3ヵ国にとって完成車の輸入が国内産業にとってセンシティブということはない。むしろ、これら3ヵ国には、高額商品の自動車に課税して関税収入を確保する狙いがあり、その観点で2001年に発効したメキシコとのFTAでは自動車が例外品目にされた経緯がある。

今回の中米との単一FTA交渉に際し、メキシコ政府は自動車の関税削減を加えることに成功し、結果的にグアテマラは15年1月1日までに、ホンジュラスとエルサルバドルは協定発効後9年以内(21年1月1日まで)に、関税が段階的に削減されることになった(表1参照)。

表1メキシコ・中米単一FTAに基づくメキシコ製自動車(注1)の関税削減

メキシコ自動車工業会(AMIA)によると、10年の対中米5ヵ国自動車輸出台数は3,453台、輸出している企業は日産、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラル・モーターズ(GM)の3社。最大の仕向け地はコスタリカだが、グアテマラ向けも多い(表2参照)。日産は中米北部3ヵ国に合計833台(10年)の自動車を輸出しているが、現行ではメキシコ製でも一般(MFN)関税が賦課されている。この関税が徐々に引き下げられ、将来的に0%になるメリットは大きい。

表2メキシコの対中米5ヵ国自動車(大型バス・トラック除く)輸出

<中米5ヵ国を合わせると第7位の輸出先に>
中米5ヵ国はそれぞれ1国単位では市場規模が小さいものの、5ヵ国を合計するとかなりの規模になる。メキシコの輸出統計をみると、10年の中米5ヵ国向け輸出総額は36億6,320万ドルに達し、米国、カナダ、中国、ブラジル、コロンビア、スペインに次ぐメキシコにとって第7位の輸出先(シェア1.2%)だ。

中米5ヵ国からの輸入は10年に28億9,200万ドルに達し、輸入相手国・地域として13番目、輸入額に占めるシェアは1.0%。貿易収支はメキシコ側の黒字で推移しており、10年時点では7億7,120万ドルの黒字だ。

リーマン・ショックの影響を強く受けた09年を除けば、輸出入ともに増加傾向にあり、10年のメキシコの対中米輸出は10年前の00年比で約2.7倍に、輸入は同8.7倍に拡大している。

最大の輸出相手国はグアテマラで、10年は14億6,740万ドルに達し、対中米5ヵ国向け合計の4割を占めた(図1参照)。最大の輸入相手国はコスタリカで、10年は前年比約2倍の19億200万ドルに達し、対中米5ヵ国合計の65.8%を占めた(図2参照)。コスタリカからの輸入急増は、インテルが同国で製造するマイクロプロセッサーの輸入拡大によるものだ。

図1メキシコの対中米5ヵ国輸出額
図2メキシコの対中米5ヵ国輸入額

メキシコから中米への主要輸出品目は、医薬品、カラーテレビ、ワイヤーハーネス、トイレットペーパー、シャンプー、携帯電話などの工業製品と原油だ(表3参照)。中米からの主要輸入品目は、インテルのマイクロプロセッサー、Tシャツなどの縫製品、革製品を除けば、パーム油や砂糖、天然ゴムなど一次産品が多い(表4参照)。

表3メキシコの対中米主要輸出品目(HS4ケタベース)
表4メキシコの対中米主要輸入品目(HS4ケタベース)

地理的・文化的な近接性から、メキシコ企業にとって中米は重要な直接投資先だ。通信のアメリカ・モビル、製パンのビンボ、化学品のメクシチェム、小売り・金融のエレクトラなどが中米に進出し、各国で積極的に事業を展開している。

(注)輸出する製品の関税分類(HS)コードが、当該製品を製造するために利用するすべての非原産部材のHSコードと上4ケタで異なっていれば、原産品とみなされるルール。プラズマ・テレビ(HS8528.72)を輸出するために、プラズマ・ディスプレー(HS8529.90)を域外から輸入調達しても、HSコードが上4ケタレベルで異なるために原産品になる。

(中畑貴雄)

(メキシコ・中米)

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