産業界や地方はヒースロー空港拡張を歓迎

(英国)

ロンドン発

2018年07月03日

産業界は、6月25日の下院によるヒースロー空港第3滑走路新設の承認を歓迎している。英国産業連盟(CBI)のキャロリン・フェアバーン事務局長は「50年にわたる議論を経てたどり着いた、真に歴史的な決断。英国と世界の交易における新たな時代の幕開けを導くものだ」述べ、空港拡張が経済に好影響を与えることに期待を示した。政府は拡張による旅客と周辺経済への直接的な経済効果を60年間で740億ポンド(約10兆8,040億円、1ポンド=約146円)と試算している。

新滑走路については国内地方都市にも配慮がにじんでおり、クリス・グレイリング運輸相は6月上旬の議会答弁で「新滑走路で増加する発着枠の15%は、全国各地への便に充てられる」と強調。ジョー・ジョンソン運輸担当兼ロンドン担当閣外相も6月27日の会合で「下院の採決では地方選出の議員の圧倒的多数が賛成した。ロンドンとの接続が一層容易になる地方こそがヒースロー空港拡張を積極的に支持してくれた」と述べ、地方の支持も大きな推進力になったとの見方を示した。

根強い周辺自治体や住民の反対

しかし楽観はできない。政府は騒音対策や周辺環境整備のために26億ポンドを投じると確約し、空港周辺の自治体や住民の反発を抑えようとしているが、拡張に反対する声は根強い。下院審議直前の6月21日には、ロンドンのチェルシー・フラム選挙区選出のグレッグ・ハンズ国際通商担当閣外相が政府の拡張計画に抗議して辞任。6月25日付「フィナンシャル・タイムズ」紙によると、既にヒリンドン、リッチモンドなど4つのロンドン自治区が裁判所に司法審査を申し立てると表明している。ロンドン市のサディク・カーン市長も25日、「下院の採決はロンドン市民にとって間違った決定。空港拡張阻止に向けて、自治区が提示した法的措置に加わる」とツイート。市長はかねて、騒音や大気汚染などの問題に加え、巨額な建設費が事業収入では賄えずに国民負担を強いられる可能性が高いと、拡張計画に反対していた。

こうした反発に対してグレイリング運輸相は、「われわれは地域社会と緊密に連携することに全力で取り組んでおり、拡張工事が周辺地域と環境に与える影響に確実に対処するという約束を順守していく」と強調している。EUからの離脱も控え、これ以上ロンドン、英国の地盤沈下を回避したい政府が順調に拡張工事にこぎ着けられるか、反対派との攻防はもうしばらく続きそうだ。

(宮崎拓)

(英国)

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