多角的貿易体制は重要な岐路に、WTOが年次報告で改革の必要性訴え

(世界)

調査部国際経済課

2026年09月16日

WTOは9月15日、年次報告書「世界貿易報告(World Trade Report)の2026年版外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。WTOは、現行の多角的貿易体制が重要な岐路に立たされているとの認識を示し、改革が停滞した場合の経済的損失に警鐘を鳴らした。WTOは、2026年3月に開催した第14回閣僚会議で改革案の合意に至らず(2026年3月31日記事参照)、現在も協議を続けている〔WTO改革の経緯は「ジェトロ世界貿易投資報告2026年版」第III章第2節PDFファイル(2.9MB)参照〕。

今回の報告でWTOは、貿易体制の見通しについて3つのシナリオを提示した。これによれば、多角的枠組みが強化された場合、2050年までに世界のGDPは基準シナリオ比で2.9%押し上げられる。特に後発開発途上国では、関税やその他の貿易コストの削減効果により、GDPが7.7%上振れすると試算した。一方、多国間貿易ルールが形骸化し、地政学的な分断が進むシナリオでは、GDPは5.1%低下する。また、WTOに代わり2国間や地域間FTA(自由貿易協定)を中心とする体制へ移行するケースで、GDPは6.9%減少する見込みだ。シナリオ間の差は最大で約10%ポイントに及び、多角的貿易体制の維持・改革の成否が世界経済に大きな影響を及ぼすことを示した。

変化する世界経済への対応迫られるWTO

報告書によると、世界の財貿易の72%は依然としてWTOの「最恵国待遇(MFN)」に基づき行われているものの、その割合は2022年の80%から低下した。WTOは、世界の貿易体制に圧力を及ぼしている要因として、経済勢力図の変化、産業政策など国家介入の拡大、デジタル化による貿易の性質変化、地政学的緊張の高まり、の4つを挙げた。過去の経済構造を前提に整備されたWTOルールは、新たな課題への対応を迫られていることから、WTOは、多角的貿易体制を下支えしてきた開放性、予見可能性、公平性を維持しつつ、より統合され、多極化し、多様化した世界経済に対応するため、ルールに基づく協力を深化させる必要があると指摘した。

こうした問題意識を背景に、WTO加盟国は改革協議を継続している。WTOは9月9日に更新した会議スケジュール外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、当初12月初旬に2日間で予定していた2026年内最後の一般理事会を、12月11~15日までの3営業日に変更した。一般理事会に先立ち、12月9日には透明性に関する非公式会合を予定している。

(吾郷伊都子)

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