ミレイ大統領の「マルビナス演説」には政権浮揚の思惑との見方も
(アルゼンチン、英国、米国)
ブエノスアイレス発
2026年09月08日
ハビエル・ミレイ大統領はフォークランド(マルビナス)諸島(注1)に関する9月3日の演説で、同諸島沖の原油開発に関与する企業への制裁を強化すると表明した(2026年9月8日記事参照)。だが、この演説の発端になったのは米国ドナルド・トランプ大統領の発言だ。
8月31日にホワイト・ハウスで英国公共放送BBCの記者から「米国はフォークランド諸島に対する(現在の中立的な)立場を見直しているのか」と問われた際、トランプ氏は「私は常にあらゆる立場で見直している」と発言。これに先立つ8月28日に、英国「テレグラフ」紙が「米国国防総省の高官らが、同諸島に対する米国の立場を材料に、英国に防衛費増額を迫る案を検討している」と報じており、BBC記者の質問はこれを受けてのものだ。
トランプ氏はさらに、9月2日の英国GBニュースとのインタビューでも「英国は(フォークランド紛争)当時から変わってしまった」「イラン戦争では私を助けなかった」など英国への不満をあらわにした。ミレイ大統領は演説の前半で「トランプ大統領はマルビナスへの米国の立場を再評価している」とわざわざ述べている。この「トランプ発言」を好機ととらえ、国民向けの演説に踏み切ったとみられる。
アルゼンチンにとって同諸島の問題は今に始まった話ではない。原油開発の問題はあるにせよ、ミレイ大統領の過去の発言(注2)からも、この問題の優先順位が現政権において高かったとも思えない。この点について、当地の政治学者フアン・ネグリ氏はジェトロとのインタビュー(9月4日付)で、ミレイ大統領の支持率低下を背景の1つとして挙げている。
サン・アンドレス大学が毎月実施している世論調査
によると、ミレイ大統領の支持率は2026年8月には35%まで低下した一方、不支持率は61%まで上昇している。2027年10月の大統領選挙に向けて政治的駆け引きが始まる中、「国民的合意が得られるマルビナス問題をテコに政権浮揚を図る思惑もあった」というのがネグリ氏の分析だ。
アルゼンチンにとって同諸島の主権回復は「国家の悲願(Causa Nacional)」であり、国民の多くは島のアルゼンチンへの帰属を望んでいる(注3)。先のサッカー・ワールドカップでは、アルゼンチンの選手らが「マルビナスはアルゼンチンのもの」と書かれた横断幕を掲げ、国際的に大きな批判を浴びたが、国内では驚くほど批判する声は少ない(注4)。今回のミレイ大統領の演説についても、政治利用したとの批判はあるが、主権回復を主張したこと自体については、マスコミ報道はじめ支持する声が大半だ。
「原油」「トランプ氏」「政権浮揚」という3つの要素が絡み合い今回の演説につながった。ミレイ大統領はあくまで交渉による解決を志向している。実際、ミレイ大統領は演説の中で「外交的、経済的、司法的および法的な手段を用いて、主権の侵害行為を抑止する」と述べている。
(注1)1982年のフォークランド(マルビナス)諸島紛争を経て英国が実効支配する群島だが、国際的には係争地として扱われている。国連は同諸島を「住民がいまだ自治を達成していない17地域」
の1つとして定義。アルゼンチンは自国の主権を主張しており、1994年の憲法改正時には、暫定規定の第1条
に「マルビナスの領土回復と主権の完全な行使は国民の恒久的かつ放棄し得ない目標である」と明記された。
(注2)リバタリアン(自由至上主義者)のミレイ大統領は2024年当時、英国のマーガレット・サッチャー首相〔フォークランド(マルビナス)諸島紛争当時の首相〕への敬意を公言し、当該問題については対立路線を否定し長期的な交渉による解決を示唆する発言をしていた。
(注3)例えば、当地調査会社CEOP LATAMが7月16日から20日にかけて実施した世論調査(n=1,100)では、マルビナスの主権帰属問題について93.3%が「大変重要」または「極めて重要」と回答。
(注4)CEOP LATAMの(注3)と同じ調査では、選手らが横断幕を掲げたことに対し83.9%が「強く支持する」または「極めて強く支持する」と回答。
(峯村直志)
(アルゼンチン、英国、米国)
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