ミレイ大統領が「フォークランド(マルビナス)諸島の資源開発関与企業に制裁強化」と国民向けに演説

(アルゼンチン、英国)

ブエノスアイレス発

2026年09月08日

アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は9月3日、フォークランド(マルビナス)諸島を巡る問題で国民向けに演説(注1)した。演説冒頭でミレイ大統領は「マルビナスが歴史的にも法的にもわが国固有の領土であることに議論の余地はない」と主張。その上で、同諸島沖での海底資源開発には「わが国政府による許可が必要だ」と表明した。

ミレイ大統領は、主権の帰属を巡り英国との間で「係争が続いている」とした上で、「国連は両国に対し過去50年間、紛争が解決されるまでこの地域で一方的な行動を取らないよう求めてきた(注2)」と説明。「にもかかわらず(英国は)、国連の要請を組織的かつ継続的に無視してきた」と英国政府を批判した。

海底資源の開発について大統領は、英国とイスラエルの企業が、英国政府の後ろ盾のもとフォークランド(マルビナス)諸島沖で進めている原油開発事業「シー・ライオン」を名指しし、この事業を含め「英国の占領下にあるわが国領土で原油採掘に関与した者に対し、法律26.659号(注3)が定める制裁手続きを迅速化するための大統領令に署名する」と表明。また、「この大統領令は、事業活動を行う企業だけでなく、その株主、取締役、サプライヤーに対する制裁を容易にするもの」とも説明、「わが国の許可なく事業に直接または間接的に関与した企業のアルゼンチン本土での活動を禁止する」とした。

この制裁強化に関し当地の政治学者フアン・ネグリ氏は、アルゼンチンで事業を行いつつ島の事業に「何らかのかたちで」関与する内外企業に警鐘を鳴らす。直接的な関与だけでなく、株式保有や間接的な取引も制裁の対象となるためだという(ジェトロのインタビュー:9月4日)。

フォークランド(マルビナス)諸島の問題は本来、主権の帰属を巡る外交問題で、かつ今に始まった事案ではない。にもかかわらずこのタイミングで、国民向け演説というかたちでシー・ライオンを標的にした背景には、アルゼンチンの原油輸出拡大計画の存在があるとみられる。

シー・ライオンは、英国のロックホッパー・エクスプロレーション(RKH)とイスラエルのナビダス・ペトロリアムが、フォークランド(マルビナス)諸島沖で進める海底油田事業。RKHが2010年に油田を発見、2025年末に最終投資決定(FID)が下され、2027年からの掘削開始と2028年からの商業生産開始が予定されている。生産された原油は世界に輸出される。

他方、アルゼンチン南西部のバカ・ムエルタ盆地では現在、シェール原油の生産が活況を呈している。生産拡大に伴い輸出も増加し、アルゼンチンの原油輸出額は2021年から2025年までの5年間で年率69.7%の伸びを示している。輸出増加の大半はこのシェール原油によるものだ。現在は米国や中南米向けに輸出されているが、2027年から超大型タンカー(VLCC)でアジア地域にも輸出される(2026年5月26日記事参照)。

ただ、この原油を輸出するためには、アルゼンチンの大西洋側まで500キロメートルを超える距離をパイプラインで輸送する必要がある。また、非在来型であるため掘削コストは在来型に比べ高い。一方のシー・ライオン原油は中質の在来型で海底油田だ。洋上でそのままタンカーに積み込める。バカ・ムエルタ原油の競争相手ともなり得る。

(注1)カデーナ・ナシオナルと呼ばれる大統領による国民向けの演説。大統領がとりわけ重要だと考える事態が発生した際に、地上波のテレビ・ラジオの全チャンネルが演説に切り替わり全国で一斉放送される。

(注2)1976年に採択された国連総会決議31/49号では、第4項で「フォークランド諸島(マルビナス)諸島の主権を巡る係争が存在し、国連が推奨する解決プロセス(交渉)が進行している間は、双方が事態を一方的に変更するような決定や措置を下すことを控えるよう両国に強く促す」とうたっている。

(注3)アルゼンチン政府の許可なく同国の大陸棚で炭化水素資源を探査することを禁じた法律で、2011年に制定。

(峯村直志)

(アルゼンチン、英国)

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