アルゼンチンの国営YPFがバカ・ムエルタ油田に大規模投資

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2026年05月26日

アルゼンチンの国営石油会社YPFは5月16日、南西部ネウケン州にある非在来型(シェール)のバカ・ムエルタ油田に向こう15年間で総額250億ドルの大規模投資を行うと発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。プロジェクトはLLL Oilと命名されたもので、アルゼンチンの投資優遇制度である「大型投資奨励制度(RIGI)」にこのプロジェクトを申請したことも同社は明らかにした(注1)。

インフラ整備も同時進行で原油は全量輸出へ

YPFによると、LLL Oilプロジェクトでは今後1,152本の油井が掘削され、2032年以降は日量24万バレルの原油が生産される計画だ。生産された原油は、現在建設中のパイプラインで南東部リオ・ネグロ州の大西洋岸プンタ・コロラダ港まで輸送され、全量が輸出される。原油とともに産出される随伴ガス(注2)は国内向けに供給される。

建設中のパイプラインはバカ・ムエルタ・オイル・スール(VMOS)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますと呼ばれるもので、YPF主導で建設が進められている(注3)。現在、バカ・ムエルタの原油は、別のパイプラインを通じてブエノスアイレス州の大西洋岸プエルト・ロサレス港から輸出されている。YPFのLLL Oilプロジェクトでもこの既存のパイプラインと同港も使って原油が輸出される見込みだ。しかし、同港は水深の問題で超大型原油タンカー(VLCC)は着岸できない。一方、現在建設中のVMOSパイプラインの到達港であるプンタ・コロラダ港では、VLCCが着岸できるよう港を改修中。VMOSパイプライン・プロジェクトの一環として港の改修と貯蔵タンクの新設が行われているもので、これも2026年後半には完成する見込みだ。VLCCが着岸できれば一度に大量の原油輸送が可能になり、アフリカ最南端の喜望峰周りで遠隔地のアジア地域に輸送しても、コスト的に許容範囲に収まる可能性がある。

シェール原油の輸出大国目指す

米国エネルギー情報局(EIA)の推計では、バカ・ムエルタのシェール原油の技術的回収可能埋蔵量は世界第4位、シェールガスでは同2位と大規模な油田だ(注4)。YPFはじめ国内外の石油各社が開発を行っており、アルゼンチン経済省エネルギー庁によると、現在のバカ・ムエルタの生産量外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますはシェール原油で日量67.3万バレル(2026年1月平均)。シェール原油の生産量は今後増加することが見込まれ、アルゼンチン炭化水素探査・生産会議所(CEPH)が2026年4月に発表した報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、2030年には最大で日量114万バレル、2035年には同149万バレルまで増加する見込みだ。輸出も増加しており、2025年の原油(バカ・ムエルタ以外の在来型含む)の輸出額は59億5,900万ドルで前年比20.8%増、2020年比では998.2%も増加している。

YPFのオラシオ・マリン最高経営責任者(CEO)は自身のX(旧Twitter)で、今回のプロジェクトについて「アルゼンチンで最も重要な原油輸出計画だ」とした上で、「今後2年間で実施される投資はこれまで実施されてきたものとは比較にならない規模」と説明、アルゼンチンにとって「新たな段階の始まりだ」と意気込みを表明した。ホルムズ海峡の情勢が混迷を極める中、原油調達先の多角化は多くの国で喫緊の課題となっており、世界ではいまだ「新参者」のアルゼンチンのシェールオイルに今後は期待と注目が集まりそうだ。

(注1)RIGIは政府が定める8つの対象分野における2億ドル以上の新規投資案件を対象に、法人税や輸出入税の減免や資本取引規制の例外措置などの恩典を、30年間保証して与える制度。

(注2)油層内に原油に溶存するなどの形で存在するガスが、原油の生産に随伴して生産されるもの。

(注3)VMOSにはYPF以外にもパンパ・エネルヒーア、パンパ・エナジー、プルス・ペトロール、ビスタなど国内民間石油会社が出資するほか、シェブロンやシェルなど国際メジャーも出資しており、2026年後半にはパイプラインが完成する見込み。

(注4)バカ・ムエルタにシェール資源が確認されたのは2011年。

(峯村直志)

(アルゼンチン)

ビジネス短信 ce2d58ab7cca292b