行政訴訟手続き法を改正、簡易手続き拡充と電子化で紛争処理を迅速化

(メキシコ)

調査部米州課

2026年06月12日

メキシコ政府は6月9日、官報で連邦行政訴訟手続き法(LFPCA)の改正を公布し、翌日に施行した(注1)。今回の改正は、連邦行政裁判所(TFJA)における税務・行政紛争の迅速処理とデジタル化の推進を主眼とする。

最大の変更点は、原則6カ月以内に訴訟が完結する簡易手続き(注2)の拡充である。改正前の第58-2条では、訴額が法定価額算出係数(UMA)年額の15倍以下の比較的小額案件に対象が限られ、内容も当局による税額確定や追徴・罰金支払い命令などを巡る訴訟が中心だった。これに対し改正後は、基準額をUMA年額の30倍以下に引き上げた上、過払い税額や誤納付税額の還付請求に対する当局の決定を対象に加えた。2026年のUMA年額(4万2,794.64ペソ、約39万3,700円、1ペソ=約9.2円)で換算すると、簡易手続きの対象上限は約128万3,839ペソ(約1,180万円)となる。

訴訟の期間管理も大きく見直された。今回の改正では、法に別段の定めがない限り、裁判所は当事者の申し立てに対する決定を5営業日以内に出す一般ルールが導入された。また、当事者、当局、裁判所、第三者が関わるさまざまな裁判のプロセスにおいて2営業日~45営業日の期限が設定されており、長期化しやすかった行政訴訟に、明確な時間軸を設定した。

電子化も前進させる。改正では、電子署名やオンライン通知の効力が明確化され、従来型手続きが開始された後でも当局や第三者が電子プロセスで参画できることが規定された。企業には、紙中心の対応から、電子通知・電子証拠管理を前提とした訴訟対応体制の整備が求められる。

一方で、保全措置(注3)はやや厳格化された。従来から社会的利益や公の秩序を損なわないことが当局の処分の執行停止の条件であったが、改正後はより厳格に条件を満たすかどうかが判断される。ただし、回復困難な損害を避けるための保全措置や保証の仕組み自体は維持・補強されている。

また、SATなど当局側による判決の見直しの申し立てを定める第63条では、管轄当局として大蔵公債省(SHCP)、国税庁(SAT)、州の税務当局に加え、改正後は国家税関庁(ANAM)が追加された。これにより、ANAMが裁判所の決定に不服申し立てを行う事例が増えるとみる専門家もいる。

IVA還付が否認された場合の訴訟には追い風

メキシコは輸出製造立国であり、進出日系企業にも自動車産業を中心に輸出向け販売中心の企業が多い。これらの企業は付加価値税(IVA)の仮払い残高(注4)が蓄積しやすく、恒常的に還付申請を行っている企業も多い。IVAの還付申請が当局に否認された場合、再申請は認められない(注5)ため、SAT法務局に対する不服申し立て、あるいはTFJAに対する無効訴訟を行う必要がある。今回の改正で、128万3,839ペソ(注6)までのIVA還付否認決定を巡るTFJAに対する無効訴訟が簡易手続きの対象となるため、これらの訴訟が円滑に進む効果を期待できる。

(注1)法改正自体は翌日施行だが、通常プロセスで開始された訴訟にオンラインプロセスで当局や第三者が参加できることを定める第19条2段落目は改正公布後180日後、訴訟における各プロセスの法定期限に関する規定については、公布後240日後に発効する。

(注2)通常の訴訟では、訴状提出、答弁、追加主張、証拠提出、付随手続きなどを経る「審理」(Instrucción de juicio)が終了してから45営業日となっているが(LFPCA第49条)、簡易手続き(Vía sumaria)の場合、審理期間も含めて6カ月で完了する。

(注3)行政訴訟の継続中に、最終判決が実質的な意味を失わないよう、現状維持や権利保全を図るために裁判所が命じる暫定的措置。処分の執行停止(suspensión)のほか、訴訟目的の保全や回復困難な損害の防止を目的とする措置を含む(LFPCA第III章で規定)。

(注4)日本の消費税に相当するメキシコの付加価値税(IVA)は、財・サービスの販売の際に顧客から回収したIVA(仮受けIVA)から、財・サービスの調達や輸入の際に仕入れ先、または税関に対して支払ったIVA(仮払いIVA)を控除した金額を月次単位で申告して納税する。輸出取引の場合、IVA税率が0%(通常取引では16%)となるため、輸出比率が高い企業は、仮受けIVAよりも仮払いIVAの方が大きくなり、仮払い残高(IVA saldo a favor)が発生する。IVAは本来最終消費者が負担すべき税金であるため、事業者は仮払い残高をSATに還付申請する権利が生じる。

(注5)IVAは還付申請後、書類や要件に不備がない場合、40営業日以内に還付される。SATは必要に応じて2回まで追加情報要求を行うことができ、納税者が同要求に応えられない場合、SATは還付の否認や、部分的な還付を決定できる。この決定を受けた場合、再申請が認められないため、不服申し立て(Recurso de Revocación)または無効訴訟(Juicio de Nulidad)といった対抗措置を取るしかない。当局の追加情報要求に十分に応えられない場合、申請を取り下げた方が無難である(自ら取り下げた場合は、書類をそろえて再申請できる)。

(注6)この金額には、延滞金利(Recargo)とインフレ調整(Actualización)を含まない。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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