カスト大統領、初の教書演説で治安回復・経済再建・制度改革を強調
(チリ)
サンティアゴ発
2026年06月04日
チリのホセ・アントニオ・カスト大統領は6月1日、国会で初の教書演説
を行った。演説ではチリが直面する「治安・経済・社会」の3つの緊急事態を明確にし、秩序回復、経済活性化、国家制度の再建を柱とする政策方針を提示した。
治安面では、組織犯罪の拡大や脆弱(ぜいじゃく)な国境管理への対応を最優先課題として示した。具体策として、北部国境での溝掘削やドローン監視の導入、警察・軍の展開強化、港湾での貨物トレーサビリティ向上などを挙げた。また、組織犯罪に対して「全面戦争」を宣言し、現行犯逮捕の適用時間の延長、警察権限の強化、移民管理・強制送還の強化などを含む立法措置を進めるとした。さらに、先住民問題を抱える南部地域で、治安の強化や先住民政策の改革を通じた長期的安定化を目指す考えを示した。
経済面では、財政の悪化と成長停滞に対する強い危機感を示した。想定を大幅に上回る財政赤字について、歳入見込み額の過大評価や支出管理の不備を問題とした。既に歳出抑制措置を実施し、社会給付を維持しつつ財政規律の回復を進めている。カスト大統領は「人気より責任を選ぶ」と述べ、財政健全化への決意を強調した。
雇用・成長では、失業率の高止まりや非正規雇用の拡大に懸念を示し、経済再活性化の必要性を訴えた。成長率4%、失業率6%、30万人の雇用回復を目標とし、投資促進と制度改革を柱とする国家再建・経済社会発展計画を推進する。特に、投資阻害要因となってきた環境許認可や行政手続きについて、異議申し立てプロセスの簡素化や案件管理をデジタル化し、停滞していた投資案件の約60%を解消したと報告した。2026年5月には月次で、過去11年で最大の約139億ドルの投資計画を承認し、環境評価中の投資案件は約890億ドルに上るとした。規制の合理化と予見可能性の向上を通じて、企業活動支援を強化する。中小規模の鉱山開発や農業分野の近代化、電気料金制度改革、再生可能エネルギー拡大、データセンターや人工知能(AI)インフラ整備なども重点政策として挙げた。
社会分野では、「社会的緊急事態」として医療(特にがん対策)や教育、住宅、出生率低下などの課題を提示した。教育では学力低下や校内暴力への対応として、学校の安全確保に関する法整備や基礎学力強化を推進した。住宅は国有地活用と中間層支援で供給拡大、出生率低下には家族支援を強化する方針を示した。制度改革では、情報公開の強化や省庁統合・人事見直しを通じ、効率化と信頼回復を進める。
今回の教書演説は、強い危機認識を前提に、治安回復と経済再建を最優先に位置付けつつ、制度改革と投資環境改善を通じた中長期的成長基盤の構築を目指す内容となった。企業にとっては、規制合理化やインフラ・エネルギー投資の拡大が期待される。
(高橋英行)
(チリ)
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