サウジアラビアで進行性・転移性乳がんの新薬「エトカマ」を主要国に先駆け承認
(サウジアラビア、英国)
リヤド発
2026年05月19日
サウジアラビア食品医薬品局(SFDA)は5月15日、局所進行性または転移性の乳がん治療の新薬「エトカマ(一般名:カミゼストラント)」を薬事承認した。対象は、1次ホルモン療法中にESR1遺伝子変異(注1)が生じた、ホルモン受容体陽性(注2)かつHER2陰性(注3)の成人患者で、CDK4/6阻害剤(注4)との併用療法として用いられる。今回の承認は、同局の「画期的医薬品プログラム(Breakthrough Medicine Program)(注5)」に基づくもので、世界の主要国の中で先駆的な承認となる。
エトカマは英国の製薬会社アストラゼネカが開発した薬剤だ。SFDAによると、同薬は経口の選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)(注6)であり、エストロゲン受容体拮抗(きっこう)薬(注7)の働きも併せ持つ。野生型(遺伝子に変異のないタイプ)・変異型を問わず、がん細胞の増殖を促すエストロゲン受容体に結合・分解することで、腫瘍の増殖と転移を抑制する働きが期待できる。SFDAが有効性・安全性・品質を包括的に評価した結果、従来の標準的なホルモン療法と比較して、病勢進行または死亡のリスクが統計学的に有意に56%低減することが示された。無増悪(むぞうあく)生存期間(PFS)の中央値(注8)は、上記の標準療法の約9カ月に対してエトカマ投与群では約16カ月と大幅に延長された。さらに、2回目の病勢進行・死亡リスクも37%低減し、患者の生活の質(QOL)の向上や症状悪化の遅延も確認された。
主な副作用としては、光の点滅や一時的な残像などの軽度な視覚症状のほか、一部患者における徐脈(心拍数の低下)が報告されている。
SFDAは、今回の承認はサウジアラビアの医薬品イノベーションを後押しし、同国の国家改革戦略「ビジョン2030」の下で推進される「保健医療セクター変革プログラム(Health Sector Transformation Program)」(注9)の目標達成にも寄与するものだとしている。
(注1)ホルモン受容体陽性乳がんの治療中に後天的に発生する遺伝子異常。
(注2)がん細胞に女性ホルモンと結びつく受容体がある状態。ホルモンを鍵に例えると、受容体は鍵穴のようなもの。
(注3)がん細胞の表面に存在する「HER2(ハーツー)」と呼ばれるタンパク質の過剰発現や遺伝子増幅が認められない状態。
(注4)細胞周期を進行させる酵素(CDK4およびCDK6)を抑え、がん細胞の増殖を止める。
(注5)SFDAが導入している、重篤な疾患や命に関わる病気の治療薬の承認審査を大幅に迅速化・優先化するための特別制度。
(注6)ホルモン受容体陽性乳がんの治療薬で、エストロゲン受容体そのものを選択的に(優先的に)分解して、がん細胞の増殖を抑える。エストロゲンは女性ホルモンの1つ。
(注7)受容体に結合してホルモンなどの働きを阻害する薬。
(注8)治療開始から患者(被験者)の半数で病勢の増悪(進行)、または死亡が確認されるまでの期間を指す。
(注9)「ビジョン2030」を達成するために策定された、医療分野全体の構造改革計画。
(林憲忠)
(サウジアラビア、英国)
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