トランプ米大統領、金融システムの顧客確認強化に向けた大統領令を発表
(米国)
ニューヨーク発
2026年05月25日
米国のドナルド・トランプ大統領は5月19日、金融システムの顧客確認およびデューディリジェンス(DD、注1)強化を目的とした大統領令に署名
した。本令は法的義務を直接課すものではないものの、財務長官に対し、金融機関への指針を発出し、規制改正の提案を実施するように求めている。2月に「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ、2月24日)が報じた、追加書類の提出義務付けは盛り込まれなかった。
大統領令の説明資料として同時に公表されたファクトシート
では、米国の金融システムが、中国のマネーロンダリング・ネットワークによる人身売買や、メキシコのカルテルによるフェンタニルに関する活動などに悪用されていると指摘した。また強制送還や賃金喪失の可能性があるいわゆる「不法移民」(就労許可のない滞在者など)を対象に不動産ローンや自動車ローン、クレジットカードを提供することは、構造的な「返済能力」の欠陥を生み出し、米国の銀行システムの安全性と健全性を脅かす構造的な信用リスクを生み出し得るとも指摘している。さらに、不法移民を雇用する事業主は、賃金を過少申告し、給与税を脱税する可能性がある。銀行がこうして吸収した信用リスクのコストは手数料や金利の上昇という形で米国の消費者に転嫁されている、とも指摘した。
本大統領令の主な措置は次のとおり。
- 60日以内に、財務長官は、就労許可がない者やその雇用主がもたらすリスクについて、金融機関向けに勧告を発出する。当該勧告には、給与税(連邦や州の雇用税)に関する不正の兆候、労働搾取、適法な移民資格の確認を伴わない形での口座開設や信用供与の取得を目的とした個人納税者識別番号(ITIN、注2)の使用といった、不審な活動に焦点を当てる。
- 90日以内に、財務長官は、DD要件を強化し、口座保有者の就労許可および移民ステータスに関する追加情報をリスクに応じて取得する権限を確保するため、銀行秘密法(注3)の実施規則の改正を提案する。
- 180日以内に、財務長官および連邦金融規制当局は、外国領事館発行の身分証明書のリスクを踏まえ、リスクに応じた顧客識別プログラム(CIP、注4)の要件強化に向けた銀行秘密法の実施規則の改正を検討する。
- 60日以内に、消費者金融保護局(CFPB)は、強制送還の可能性が与信審査におけるリスク要因となり得ることを明確化することを検討し、貸し手が当該要因を合理的に考慮し得ることを示す。
- 60日以内に、連邦金融規制当局は、就労許可のない者に対する融資および金融サービスの提供に伴う信用リスクの管理に関する勧告を発出する。
一方で、銀行業界は、多額の費用と時間を要するとして、本大統領令に反対している。政策調査会社キャピタル・アルファは、「この大統領令が大きな影響を与えるとは考えにくいものの、銀行にコンプライアンス業務や事務手続きの負担を増やす結果になる可能性がある」と述べている(「アメリカンバンカー」5月20日)。移民支援団体も反対し、この措置が就労資格のない者を金融システムから排除し、投資や貯蓄の減少につながると主張している。また、リッチー・トーレズ下院議員(民主党、ニューヨーク州)は、本大統領令が発表される前の4月30日に、銀行による消費者の市民権や移民ステータスに関する情報を収集および開示することを禁止する「金融アクセス保護法」案を提出している。
現状、米国市民権を持たない者による銀行口座開設は禁止されておらず、顧客確認規則(KYC、注5)においても市民権の有無は要件とはされていない。このため、本大統領令は不法移民による金融システムの悪用に焦点を当て、現行制度において求められていない情報の取得やリスク評価の強化を促す方向性を示している。財務省は2025年11月に、還付可能な税額控除を公的給付として再分類し、不法滞在者やその他の資格要件を満たさない外国人が利用できないよう改正した。
(注1)金融犯罪を防止するために、顧客の本人確認や取引内容の把握を通じてリスクを評価し、継続的に監視するプロセス。
(注2)社会保障番号(SSN)を持たない外国人が米国の税務申告を行うために米国内国歳入庁(IRS)から発行される識別番号。
(注3)1970年に制定された金融機関を利用したマネー・ロンダリングやテロ資金供与などの金融犯罪を防止するための法律。
(注4)金融機関に対し、新規口座開設者の本人確認を義務付ける制度。
(注5)金融機関が顧客の本人確認やリスク評価を行うための一連の手続き(氏名・生年月日・住所などの個人情報収集など)で、取引開始時および取引関係の継続中に実施)。
(大垣ジャスミン)
(米国)
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