産業財産権保護法の改正を公布、USMCAなど国際基準に対応

(メキシコ)

調査部米州課

2026年04月10日

メキシコ政府は4月3日、産業財産権保護法(LFPPI)の改正を連邦官報で公布し、翌日施行した。同改正は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しを視野に入れ、(1)技術移転の促進、(2)特許・商標などの保護手続きの簡素化・迅速化、(3)メキシコ産業財産庁(IMPI)の機能強化と国際基準との整合などを目的とし、包括的な制度改正になっている(IMPIプレスリリース2026年4月5日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

特許の分野では、仮特許出願制度が新設された(改正LFPPI第105 Bis条)。最小限の情報(発明者名と発明内容)で出願日を確保でき、12カ月以内に正式出願を行う仕組みだ。仮出願自体は公開や実体審査の対象とならず、国際優先権も生じないため、開発初期段階の技術保護や投資交渉を後押しする目的といえる(注1)。また、特許・実用新案・意匠について、IMPIに対して実体審査開始から1年以内に最終判断を求める法定期限を初めて導入した(第111 Bis条)。

商標分野では、法定処理期限が申請の種類別に明確化された。商標・商号・営業標識について、出願日から原則5カ月以内に登録可否が決定される(第229条、第229 Bis条)。商標・商号・営業標識の更新は3カ月以内に判断される(第237条)。商標ライセンスの登録、譲渡および変更の登録は2カ月以内に行われる(第240条)。これにより、従来不透明だった審査期間に予見可能性が与えられた。

商標の保護対象も拡張され、従来の文字・図形などに加え、位置商標、動き商標、マルチメディア商標が明文化された。加えて、これらの組み合わせによる複合商標も明示的に登録可能とされ、市場のデジタル化や非伝統的ブランディング手法に対応した(第172条)。

AIを用いた侵害行為などにも対応

今回の改正では、人工知能(AI)を用いた侵害行為やアンブッシュ・マーケティング(注2)を明確に行政違反として規定し、取り締まりを強化する(第386条)。さらに、IMPIの権限の拡大(法的アドバイスの提供など)、電子出願・電子署名の全面的導入、法定期限を超過した場合に技術委員会が介入する強制的決定手続き(注3)の創設などにより、迅速かつ実効的な権利保護体制の整備が期待される。

また、LFPPI第41条に規定されるパリ条約に基づく国際優先権(注4)が失効した場合でも、失効から3カ月以内に必要な書類整備など一定の要件を満たした場合は優先権が回復する制度(第42条)やメキシコ国内で外国特許などの優先権を確保するための出願文書の不備を修正する手続き(第106条)が導入された。そのほか、特許などの出願手続きにおいて出願人が期限を守れずに「手続き放棄」とみなされる前に、同期限後の15営業日以内であれば所定の申請と手数料を支払った上で欠けていた行為を同時に履行することで手続き上の権利を回復できる制度(第113 Bis条)も導入され、国際的なベストプラクティスを参考に特許関連の申請手続きに柔軟性を持たせる改正が盛り込まれている。

(注1)他国の仮出願制度では、仮出願日をもって国際出願することで国際的な優先権が与えられることがあるが、メキシコは仮出願の効果をメキシコ国内における出願日の確保(国内優先権)に限定している。詳細な書類が準備できる前に出願を可能にすることで、人的資源や資本が不足するメキシコの中小企業の発明を国内で保護する目的がある。ただし、仮出願の12カ月以内に正式な出願を行わない場合、国内の優先権も消失する。

(注2)スポーツイベントなどの公式スポンサーでないのに、あたかも公式に関係しているかのような印象を与えて、イベントなどの知名度を利用するマーケティング手法。

(注3)第327条 Bis条で、強制的決定手続きの申し立て要件や対象手続きを定めている。例えば、特許・実用新案・意匠については、実体審査開始から1年以内に決定すべき手続きが対象となる。第327 Ter条は、IMPI理事会の下に置かれる「技術委員会(Comité Técnico Especializado)」の設置と構成を定め、第327 Quater条で技術委員会による審査、IMPI担当職員への決定期限順守の強制および責任追及が規定されている。

(注4)工業所有権の保護に関するパリ条約に基づく国際優先権とは、最初にある国で特許出願をしてから一定期間(原則12カ月)以内に他国へ出願すれば、後の出願も「最初の出願日」に出願したものとして扱ってもらえる制度。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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