米石油大手エクソンモービル、法的登録地のテキサス移転を株主に提案へ
(米国)
ヒューストン発
2026年03月12日
米国石油大手エクソンモービルは3月10日、取締役会が法的登録地をニュージャージー州からテキサス州へ移す提案を全会一致で決議
し、2026年の年次株主総会に付議すると発表した。移転は株主承認を前提とし、承認後も事業運営、戦略、資産、社員配置に変更はないとしている。提案の背景には、近年、整備が進んだテキサス州の企業法制や、複雑な商事紛争に対応する専門裁判所「テキサス・ビジネス裁判所」の存在があり、経営判断が法律上どう扱われるか予測しやすくなると期待している。同社は1989年以降、テキサス州スプリングに実質的な本社機能を置いており、実態と登記の「ねじれ」を解消する狙いがある。
同社は1882年に設立された「ニュージャージー・スタンダード石油会社」を発祥としており(注1)、ニュージャージーからの移転は歴史的に象徴的な意味を持つ。ただし、長年にわたり経営の中枢と人員はテキサスに集積しており、実務面の影響は限定的とみられる。
今回のエクソンモービルの発表を受け、テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)は声明を発表し、「過度な規制に縛られないテキサスは、世界的ブランドリーダーが成長し、勤勉なテキサス州民の雇用が拡大する場所だ」と強調した。
米国の法人登記地選択をめぐっては、依然としてデラウェア州の存在が大きいが、全体的な潮流は多様化へ向かっている。議決権行使助言会社ISSによると、2025年は6月までに18社がデラウェアから他州への再登記を提案し、移転先としてネバダ州、フロリダ州、テキサス州などが選好された。デラウェアには企業間紛争などで豊富な判例を有する均衡法裁判所があるが、他州の「成文法中心(statute-focused)」で予見可能性が高い法的環境を企業が評価するようになっているという。
「デグジット〔Dexit、デラウェアの頭文字Dと退出(exit)をかけた造語〕」とやゆされる、企業流出のきっかけといえるのは、2024年の実業家イーロン・マスク氏の報酬無効化判決(注2)だ。同氏は司法が企業経営に強く介入する事例に反発して、同氏が率いるテスラやスペースXの法人登記地をテキサスへ移転した。同時期には、ほかの複数企業もデラウェア州から移転したり、移転を検討したりしていると報じられた。
こうした動きに対し、デラウェア州では2025年3月25日、デラウェア州一般会社法(DGCL)改正案(SB21)が成立。2026年2月27日には、同州最高裁が同案を合憲と認めた。改正案では、取締役・支配株主に利益相反がある取引でも、利害関係のない取締役や株主が承認すれば合法性が保護される「セーフハーバー」を導入し、企業にとって訴訟リスクを避けやすい改正を加えた。また、株主の帳簿閲覧権(DGCL§220)を一部制限する内容を含むなど、経営裁量をより尊重する方向へ制度の修正を図っている。
(注1)19世紀後半に実業家のジョン・ロックフェラー氏が築いた巨大企業スタンダード・オイルは、1911年に米国連邦最高裁判所の判断で34社に分割された。その1つとして誕生したのがニュージャージー・スタンダード石油会社(Standard Oil of New Jersey)で、のちにエクソンとなった。
(注2)2018年、テスラの取締役会と過半数の株主により承認された総額約560億ドルのマスク氏への報酬パッケージに対し、テスラ株主が「同氏が実質的に取締役会を支配し、過大報酬を強要した」としてデラウェア均衡法裁判所に提訴。2024年の判決で同裁判所は、報酬パッケージの全面取り消しを命じた。しかし、2025年12月19日、デラウェア州最高裁は「報酬の無効化」を覆す判決を下した。
(キリアン知佳)
(米国)
ビジネス短信 fd2f0069a7effc34






閉じる