伝統工芸企業が漆器の型にとらわれないオリジナル商品で海外市場開拓
(日本、フランス)
金沢発
2026年03月31日
石川県の伝統工芸品である山中漆器を製造販売する浅田漆器工芸は、2026年3月6~9日にフランス・パリで開催された「MATTER and SHAPE
」展に新商品を出品した。グローバルなデザイン文化を紹介する同展には世界各国から76社が出展し、浅田漆器工芸はジェトロのマッチング事業を通じて協業したフランスのANF Workのブースで参加し、大手ブランドや現地メディアなどから高い評価を得た。
「MATTER and SHAPE」会場内のブース(浅田漆器工芸提供)
商品開発のきっかけは、2025年3月のANFの共同経営者が別途営むDejima Storeとの出会いだ。ジェトロが招聘(しょうへい)した同社はA New Framework(ANF)という産地の再活性化などを軸にした新プロジェクトを手掛けていた。浅田漆器工芸は、ANFの枠内で「MATTER and SHAPE」での発表を視野に、バイヤーと従来の漆器の型にとらわれないオリジナル商品の開発に着手した。しかし、求められた仕様は従来の山中漆器では完成品とされない段階の表情をあえて残すもので、同社としては当初「売れるのか」という不安を抱えながら、1年間に及ぶ試行錯誤を重ねた。
開催直前まで、バイヤーと調整を続け、完成したのは、漆器の制作工程を可視化した「Nuriwake Tray(ぬりわけトレイ)」だ。
木地から拭き漆、下地、中塗り、上塗りまでの5つの工程を1つのトレイの中で段階的に表現した商品で、あわせて各工程を単体で示した商品も制作した。出品すると、「漆が擦れた感じが良い」「部分的に塗りが剥がれて、白木(注1)が見えるのが味わい深い」と高く評価された。漆製品になじみのない欧州では、日本の漆器は樹脂製品と誤解されやすいが、同商品は天然素材であることが視覚的に伝わり、環境意識の高い消費者の関心を引いた。
「Nuriwake Tray」(ぬりわけトレイ)(浅田漆器工芸提供)
今回の取り組みを通じ、欧州市場における漆器の新たな可能性を実感した浅田明彦社長は「欧州の文化により近づけた質感やデザインを漆器で表現したい」と述べた。外部からの要望に対する同社の柔軟な対応はパートナーとの信頼関係の構築につながり、今回の挑戦は同社にとっても現地ニーズを踏まえた商品開発の重要性を認識する機会となった。この事例は、国内市場の縮小傾向が見られる中、海外市場を見据えたマーケットイン型(注2)のものづくりが、今後の海外販路拡大において重要であることを示している。
次回の「MATTER and SHAPE」展は、2027年3月5~8日に開催予定。
(注1)漆器において、漆が塗られる前の木地そのもののこと。
(注2)海外現地市場や顧客のニーズを基に新たに商品を企画開発する考え方。
(吉川尚孝)
(日本、フランス)
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