調味料メーカーに聞く、EPAを営業戦略に変える実践術
(世界、日本、ASEAN)
調査部国際経済課
2026年03月09日
エバラ食品(横浜市)は、業務用調味料を主軸にアジア・ASEAN展開の拡大を進めている。複数の経済連携協定(EPA)を使い分けつつも、自己申告制度をより確実に運用するための専門家によるチェック体制や、EPAメリットを分かりやすく伝える公的機関からのさらなる情報提供に期待を示す。同社の貿易事業部門に、EPA利用状況や課題を聞いた(取材日:2026年2月24日)。
販路開拓とともに進んだEPA活用の深化
エバラ食品グループが、東アジアを中心とした海外展開をASEANへと本格的に広げたのは約5年前だ。この転換期に、輸出先の新規開拓とEPA活用が相互に作用した。同社では、商社からの要請をきっかけに制度理解を深め、現在は日本からの輸出において2国間協定、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)などを横断的に使い分ける。ベトナムやマレーシア向けでは、原産地基準を満たしやすいことから、他協定からCPTPPに切り替えた例もある。
制度の複雑さに対応するため、商工会議所やフォワーダーに相談を重ねつつ、社内では役立ちリンク集や対比表の元情報を整備した。主要品目の中には、EPA利用時の特恵税率と一般税率の差が10ポイント以上になるケースもあり、関税減免効果を実感している。
エバラ食品の歴史と今後の取り組みを展示する本社ショールーム(ジェトロ撮影)
「確かな情報」への需要と、組織を越えた理解促進の必要性
一方、自己申告による原産地証明書の作成では、輸入側の独自運用が持ち込まれる場面もあるという。インボイスごとの原産地証明書の原本郵送や、船荷証券発行後の原産地証明書依頼など、現場で運用のばらつきが生じるたび、書類対応や社内調整の負荷は増える。さらに、定期的な異動や、配合情報へのアクセスが限られる食品メーカー特有の秘匿性から、長期にわたりEPA業務を担当できる人材が少なく、制度の継続運用を難しくしている側面もある。
こうした背景から同社は、経営層や他部署、サプライヤーにも理解しやすいかたちでEPAメリットを伝える周知・啓発ツールの必要性を強調する。さらに、自己申告による書類を事前に専門家に相談できる仕組みがあれば、担当者が少人数でも運用が安定すると感じている。こうした現場負担の大きさは同社だけの問題ではない。日本全体でも、EPA活用が取引先の要請に左右されやすく(注)、輸出側を巡る当事者全体にメリットが十分浸透しないまま運用が進むため、関税減免効果の把握や手続き標準化が進みにくい実態があるとみられる。
エバラ食品グループは今後、日本食市場が拡大するASEANへの販売をさらに強化したい考えだ。シンガポールの地域統括拠点と、ハラール対応品の生産も担うタイ工場を軸に、域内向けの輸出では、日本が関与しない第三国間EPA活用にも取り組む可能性がある。EPAを、コスト削減の手段としてのみならず販路拡張とも結びつける同社の姿勢は、攻めのツールとしてEPAを生かす実践例といえる。
(注)2024年度輸出に関するFTAアンケート調査(ジェトロ)
(1.8MB)によれば、EPA利用のきっかけは、「輸出先国の取引先からの要請」が最多の67.9%。
(吾郷伊都子、中村周)
(世界、日本、ASEAN)
ビジネス短信 93283d69fdde9cd3






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