米ホワイトハウス、リンとグリホサート系除草剤の国内供給確保を図る大統領令を発表
(米国)
調査部米州課
2026年02月20日
米国のドナルド・トランプ大統領は2月18日、国防生産法(DPA)に基づき、「元素リンおよびグリホサート系除草剤の国内供給確保を図る大統領令
」を発表した。ホワイトハウスは、元素リンが煙幕・照明・焼夷(しょうい)弾などの軍需用途に加え、防衛関連半導体やリチウムイオン電池など広範な産業用途に不可欠であるほか、グリホサート系除草剤製造の前駆体として食料安全保障上も重要と位置付けている。
リンを巡る国際環境では、世界最大のリン産出国で、世界のリン生産量の約4割を算出する中国の輸出規制強化を背景に世界市場の逼迫が続いている。リン循環産業振興機構
によれば、世界生産量の約9割は生産国が国内で消費しており、国際市場に流通するリン鉱石は約1割に過ぎないとされる。米国では必要量を自国では賄いきれず、年間6,000トンを輸入している。
大統領令の背景には、米国農業におけるグリホサート系除草剤への依存の高さがある。リンは同除草剤の重要原料であり、同除草剤は米国では遺伝子組み換え(GM)耐性品種の普及とともに使用量が増加し、大豆・トウモロコシ・綿花の作付面積の90%以上で使用されている。特に中西部〜プレーンズ地域(アイオワ州、イリノイ州、カンザス州、テキサス州など)で行われている大規模農業では、広域かつ短時間で処理できる除草剤が不可欠となっている。政府はグリホサート系除草剤に直接的に代替できる化学薬剤は存在しないとしており、同除草剤の安定的な確保は政策上の重要課題だ。
グリホサート系除草剤製造(注)には元素リンを原料とするホスホン酸系中間体が必要であるため、元素リンの国内生産能力の不足は、農業投入材の安定供給に直結する重要課題となる。ホワイトハウスは今回の大統領令で、元素リンとグリホサート系除草剤を「国防および食料安全保障上の戦略物資」と位置付け、国内供給能力強化を掲げた。
今回の措置は米国内の供給確保が主眼だが、日本企業にも無関係ではない。リン製品の安定調達を含む国際市場への影響が波及する可能性があり、農薬・化学業界では価格や供給の変動リスクへの注視が必要となる。
(注)米国内でグリホサート原体を製造する企業はバイエル(旧モンサント)1社のみ。同社には除草剤の発がん性を巡り2026年2月までに約17万件の訴訟が提起されていたが、このうち約10万件は2025年までに総額約110億ドルで和解済みだ。さらに、同社は2026年2月17日には、残る約7万件弱についても総額72億5,000万ドルを拠出する全米集団訴訟の和解案に合意したと発表
した。
(岩井晴美)
(米国)
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