ドイツ連立与党、競争力強化へ産業用電力価格導入を含む5施策を決定

(ドイツ)

ベルリン発

2025年12月03日

ドイツの連立与党であるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)は、11月13日の連立委員会で経済成長と雇用維持を目的とする5つの主要措置からなる政策パッケージを決定した。「ドイツを強くする」と題して翌14日に公表した主な内容は次のとおり。

(1)ドイツ基金創設

連邦政府の公的資金約100億ユーロを呼び水に約900億ユーロの民間投資を引き出す。合計1,000億ユーロの資金は「未来基金」「資源基金」「新しいエネルギーインフラ基金」の3分野に配分される。具体的には、経済成長や技術革新の促進とスタートアップや安全保障・国防関連産業に対する成長機会の創出、レアアースなど重要資源の確保、電力・熱供給網や再生可能エネルギー設備の増強などに充当される。

(2)産業用電力価格導入

エネルギー集約型産業の競争力維持を目的に2026年から2028年までの暫定措置として導入。補助対象の電力量に対する目標価格を1キロワット時あたり5セントとする。既存の電力価格補償制度の適用範囲も拡大する。

(3)発電所戦略:水素対応発電所の増設による電力の安定供給確保

電力需要増と供給の安定性確保に対応するため、風力・太陽光による発電不足時に稼働する柔軟な発電所を整備。合計10ギガワット分の制御可能な発電設備の建設を入札制で公募し、新たに建設される発電設備のうち、ガス火力発電所には2045年までに水素など気候中立燃料へ転換可能とする義務を課す。短期の安定供給と長期の脱炭素化の両立をはかる。

(4)欧州資本市場統合の加速

企業の資金調達条件を改善し、金融規制の簡素化で官僚主義的な負担を減らし、民間資金を欧州全体で動員。ドイツとフランスが先導して国際競争力を強化、企業のエコロジー・デジタル転換に必要な資金を確保する。

(5)航空産業の負担軽減

ドイツ航空産業の競争力回復に向けて、包括的な負担軽減策を導入。航空旅客税(チケット税)を2026年7月に引き下げることで年間約3億5,000万ユーロの税負担軽減を見込む。またドイツ国内独自のPtL(注)混合義務を早期撤廃し、欧州基準に調整。さらに航空管制や保安検査の手続き見直し、輸入付加価値税精算効率化などでコストを削減し、航空路線の国際接続性を維持する。

(注)パワー・トゥ・リキッド(Power to liquid)。再生可能エネルギー由来の電力を用いて、水素と二酸化炭素(CO2)を合成し、持続可能な航空燃料(SAF)を製造する技術。

(中山裕貴)

(ドイツ)

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