シカゴで北米放射線学会が開催、医療画像分野の最新動向を紹介
(米国)
シカゴ発
2025年12月05日
米国イリノイ州シカゴのマコーミックプレイスで11月30日から12月4日まで、北米放射線学会(Radiological Society of North America:RSNA2025)が開催された。同会議は医療画像・放射線学分野で世界最大級の国際学会・展示会で、2025年は「Imaging the Individual(個人をイメージする)」をテーマに、臨床・研究・技術開発の幅広い領域で最新動向が紹介された。
展示会部分であるテクニカル・エグジビッツは11月30日~12月3日に実施され、約700社が出展した。例年どおり米国大手医療機器メーカー、大学病院、研究機関に加え、ソフトウエア企業や新興企業・スタートアップ企業の出展も多く、会場ではCT・MRIをはじめとする画像診断機器、関連ソフトウエア、データ管理システムなど多様な製品が披露された。
RSNA2025では、医療画像に関連した人工知能(AI)技術が主要トピックとして扱われ、画像解析・読影支援(注)やワークフロー改善に関するセッションが数多く設定された。中でも、救急症例を即時に検出し優先度を自動付与する「スタットAI(Stat AI、緊急トリアージAI)」は、今回の会場で最も注目を集めた領域の1つだった。スタットAIは、脳出血、肺塞栓、大動脈解離、気胸など生命に直結する病態をリアルタイムで解析し、結果を放射線科や救急部門のワークフローに即時反映する仕組みを実現するもので、その臨床的価値があらためて強調された。これまで エイドック(Aidoc)やビズ・エーアイ(Viz.ai)といった企業が市場を牽引してきたが、2025年はマサチューセッツ州のスタートアップのエイ・トゥー・ズィー(a2z)が軽量・高速処理を武器に存在感を高め、複数の臨床現場担当者やメディアが高い関心を示していた。
一方で、生成AIについては、医療画像教育、症例生成、研究プロトコル設計など非診断領域での応用可能性が議論され、医療現場への導入に向けた安全性評価や実運用モデルについても議論された。医療データマネジメントに関するセッションも充実しており、画像データの統合管理、研究利用、セキュリティー確保、AI開発のためのデータ品質向上など、医療機関におけるデータ活用の幅が広がっていることが示された。CDやDVDを廃したデジタル共有プラットフォーム、クラウド/オンプレミスのハイブリッド運用、AIモデル管理など、医療DXを支える基盤技術への注目も高い。
日本企業の参加も多く、キヤノンメディカルシステムズや富士フイルムなどがAIを活用した画質改善技術やワークフロー統合製品を展示した。両社は、米国市場におけるプレゼンスの維持に加え、現地病院や大学研究機関との連携強化、AIを活用した撮影効率化や検査統合プラットフォームの開発に力を入れている。
RSNAは、医療画像分野の技術・研究・臨床の最新情報が集約される場として、医療機関、企業、研究者にとって重要な情報源だ。RSNA2025でも、画像診断技術の高度化、スタットAIをはじめとする緊急読影支援、生成AI、医療データ活用など、多様なテーマで活発な議論が行われており、今後も医療DXと画像解析技術の発展に関する動向が注目される。
会場内の様子(ジェトロ撮影)
(注)医療画像データ(CT、MRI、X線など)を読影専門の医師に送信し、診断支援をしてもらうサービスのこと。
(住谷紗恵子、井上元太)
(米国)
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