国民投票で、女性への兵役など義務拡大と連邦遺産贈与税の導入に関する2つの国民発議を否決
(スイス)
ジュネーブ発
2025年12月04日
スイスで11月30日に国民投票(注1)が実施された
。市民義務に関するイニシアチブ(国民発議)(注2)と、気候変動対策の財源として連邦遺産贈与税を導入する「未来のためのイニシアチブ(国民発議)」の可否を問うもので、国民投票の結果、反対票がそれぞれ84.15%と78.28%となり、圧倒的多数でともに否決された。
スイス国民のすべての男性は現在、兵役(Military service)または民間防衛(civil protection)の任務を遂行することが義務付けられている。良心的兵役拒否者は、代わりにより長い期間の民間防衛に従事しなければならず、いずれの活動にも従事しない者は、免除税を支払わなければならない。民間防衛活動の大部分は、スイスの国家安全保障に直接関係しているが、スイス国民の女性は、兵役または民間防衛への参加は任意となっている。今回の市民義務に関する国民決議は、女性を含むすべてのスイス国民に対して地域社会活動または環境奉仕活動に従事することを義務付ける提案。2013年に設立された団体「サービス・シトワイエン」が同イニシアチブを提起し、2023年10月に有権者10万7,613人の署名を政府に提出し、国民投票にかけられることになった経緯がある(スイス公共放送協会国際部「スイスインフォ」)。同国民決議は、気候保護、食糧安全保障、介護などの分野における義務的奉仕活動に重点を置くことで、国家安全保障の定義を拡大することを目指していた。現行制度と同様に、当該奉仕活動に従事しない者には税金が課される。兵役義務が拡大されれば、徴兵されるスイス国民の数は倍増し、連邦政府や州政府のコストや、経済コストが比例して増加することに対する懸念が示されていた。国民投票の結果、反対票が、79.67%となったバーゼル=シュタット準州(注3)を除くすべての州と準州で8割を超え、中でもアッペンツェル・インナーローデン準州では88.31%に達した。
もう1つの「未来のためのイニシアチブ」は、連邦遺産贈与税の導入により、気候変動対策の資金増額を提案するもの。社会民主党青年部(JUSO)が2024年2月に約11万人の署名を政府に提出して、同年3月に国民投票にかけられることが承認された。これまでは州とコミューン(市町村)のみが課税していたが、遺産贈与税として50%の連邦税を追加し、最初の5,000万スイス・フラン(約97億円、CHF、1CHF=約194円)は免除する内容で、歳入の3分の2は連邦政府に、3分の1は州に配分される。スイスは2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにすることを公約としており、この公約は有権者の承認を得ているが、現在の気候変動対策予算(年間で約20億CHF)は主に自動車燃料への消費ベースの課税により賄われている。この資金の補強を富裕層への課税強化により捻出しようとするイニシアチブだったが、反対票の割合が最も少なかったバーゼル=シュタット準州で66.58%、最も反対割合が高かったアッペンツェル・インナーローデン準州では90.98%と、圧倒的多数で否決された。
(注1)スイスでは年に最大4回、国民投票が実施される。
(注2)有権者10万人以上の署名を18カ月以内に集めることを要件として、国民による憲法改正の提案が可能。
(注3)スイス連邦は26の州と準州で構成され、州は連邦議会における議員配分が2人なのに対して、準州は1人。
(田中晋)
(スイス)
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