欧州委、「質の高い雇用創出に向けたロードマップ」を発表、競争力強化策の一環
(EU)
ブリュッセル発
2025年12月10日
欧州委員会は12月4日、政策文書「質の高い雇用に向けたロードマップ
」を発表した(プレスリリース
)。給与、労働環境やキャリア形成などの面で働きがいや働きやすさを重視した質の高い雇用を創出し、イノベーションの創出や生産性の向上、企業が必要な人材確保につなげることを目指す。「競争力コンパス」(2025年2月6日記事参照)など一連の競争力強化策の一環で、合計200以上の産業団体や労働組合が策定に協力した。
ロードマップは、重点分野に(1)質の高い雇用の創出・維持、(2)労働における公平性と現代化、(3)グリーン化、デジタル化および人口動態の変化における労働者と雇用主の対応支援、(4)労使対話・交渉の強化、(5)労働者の権利の保護や質の高い公共サービスの提供、適切な投資の確保を挙げた。今後、各分野の具体策を取りまとめ、2026年中に「質の高い雇用規則」案を発表するほか、同規則を補完する法的拘束力のないイニチアチブなどを策定していく。
質の高い雇用規則は、労働者の保護と中小企業支援を中心に競争力強化とのバランスを取りながら、労働者の権利関連の法令を技術・経済・社会の変化に即したものにするために導入される。策定に向け、パブリックコンサルテーション(公開諮問)を2回実施する。第1回は2026年1月29日までで、同規則の対象となりうる(1)職場におけるアルゴリズム管理(注1)と人工知能(AI)の活用、(2)新しい技術の導入による職場の安全性や健康への影響、(3)下請け契約における労働条件、(4)グリーンとデジタルへの公正な移行、(5)労働法関連の適正な執行に関し、EUとしての取り組みの必要性や課題について意見を募る。
例えば(1)に関し、同公開諮問に係る欧州委の文書
では、AIの活用は生産性の向上には必要不可欠であり、既に約4分の1のEU域内企業がさまざまなアルゴリズム管理を活用しているが、米国と比較し、コスト面や従業員の抵抗を理由に導入が進んでいないという調査結果があると指摘した。そこで、同分野でEUが取り組み可能な課題として、AIの導入推進とアルゴリズム管理を伴う従業員のプライバシーの保護を挙げた。
EUでは、AI法(2024年5月27日記事参照)や一般データ保護規則(GDPR、注2)が職場におけるデジタル技術の活用に係る水平的な規制枠組みとなっている。公開諮問では、現行法令の執行を徹底すると同時に、必要であれば補完的な措置を実施することや、各法令間の相互関係を整理し、企業・従業員双方の規制順守に伴う負担を軽減することを提議した。
(注1)従業員の業務割当やスケジュール管理などを、アルゴリズムを搭載した自動化システムで行うこと。
(注2)ジェトロの「特集 EU一般データ保護規則(GDPR)について」を参照。
(滝澤祥子)
(EU)
ビジネス短信 b1fb0201732d7402




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