中東進出日系企業調査、投資環境の課題は「人件費の高騰」、魅力は「市場の将来性」

(中東、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、トルコ、イスラエル)

調査部中東アフリカ課

2025年12月11日

ジェトロは12月11日、「2025年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)」を発表した。中東9カ国に進出する日系企業206社に対して、現地での活動実態に関するアンケート調査を2025年9月1~22日に実施し、取りまとめたもの(8カ国、177社から有効回答)。

中東進出済の日系企業において、「中東に拠点を構えている理由」(複数回答可)としては、「市場の将来性」が前年同様に最多の約7割、「市場規模」が5割だった。中東全体では「投資環境の魅力」(複数回答可)として、「市場規模、成長性」との回答が64.4%で最多、「言語、コミュニケーション上の障害が少ない」との回答が続いた。

国別の魅力をみると、アラブ首長国連邦(UAE)では、「フリーゾーン/経済特区などのメリット」が前年比15.5ポイント増の66.7%で最多だ。サウジアラビアとトルコでは、「市場規模、成長性」との回答が約9割にのぼる。イスラエルでは、「イノベーション創出や新技術の探索に適した環境」との回答が85.0%で最多だった。

課題として人件費が高騰との回答が最多

投資環境の課題(複数回答可)では、中東全体では「人件費の高騰」が前年同様に最多で48.9%だった。現地の雇用環境に関する設問においても、人材確保の状況が悪化している理由として「賃金・待遇面などの要求水準の高まり」との回答が最多だった。人材の採用・定着に関する取り組みの内容としては、「給与面での待遇の改善」が約6割。「福利厚生、働きやすい労働環境の整備」「働き方改革・柔軟化」が続いた。なお、日系企業の2024年の年間離職率をみると、中東全体では管理職の離職率0%の企業が8割弱、非管理職の離職率0%の企業が約半数で、世界全体と比べると離職率は低い状況だ。一方、トルコやサウジアラビアの非管理職の離職率は、他の国の中東諸国と比べて高い水準だった。

投資環境の課題では、「不安定な政治・社会情勢」も前年比15.4ポイント増で41.9%と高かった。中東では2025年6月にイスラエルとイランの衝突があったほか、アンケート実施の9月時点ではイスラエルとハマスが停戦前の状況だった(詳細は特集「イスラエル・イラン情勢」「イスラエルとハマスの衝突」を参照)。さらに、課題としては「法制度の未整備・不透明性」が39.4%、「不動産賃料の高騰」が35.6%と続いた。

また、「投資環境面で改善した点」(複数回答可)との設問に対しては、「課題はあるが何も改善していない」との回答が51.4%で最多だった。一方で、「市場規模、成長性」「規制・法令の整備、運用」などが改善したとの回答もあった。

(井澤壌士)

(中東、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、トルコ、イスラエル)

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