秋季予算案を発表、財政安定化へロードマップを提示

(英国)

ロンドン発

2025年12月02日

英国のレイチェル・リーブス財務相は11月26日、キア・スターマー政権発足後2回目となる秋季予算案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(添付資料表参照)。財政安定化に向け、217億ポンド(約4兆4,919億円、1ポンド=約207円)の財政余力を確保するとともに、公的債務のGDP比率を引き下げるための今後のロードマップを示した。

今回の秋季予算では、歳入拡大を目的とした個人所得税の引き上げの有無が関心を集めたが、最終的に税率の引き上げは実施されなかった。一方で、個人所得税および国民保険料(NICs)、相続税(IHT)の各課税基準額〔税率を判定する際の所得の閾値(いきち)〕の凍結期間は、2031年4月まで延長される。本来であれば、物価上昇に応じて課税基準額が引き上げられるが、据え置くことで高税率帯の納税者を相対的に増加させ、歳入増につなげる。

環境関連では、2028年4月からバッテリー電気自動車(BEV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)を対象に、走行距離課税(eVED)を導入する(注)。さらに、不動産・配当・貯蓄所得への課税を2ポイント引き上げるほか、2028年4月から200万ポンド以上の高額住宅には高額カウンシルタックス追加課税(HVCTS)をイングランドで導入する。

生活費高騰に苦しむ家計を支援するため、家庭用エネルギー料金を1世帯あたり年間平均150ポンド引き下げる。加えて、規定鉄道運賃・燃料税・処方箋料金の値上げは見送る。最低賃金は2026年4月から、21歳以上(NLW)は時給12.71ポンド、18~20歳(NMW)は時給10.85ポンドへ引き上げられる。社会保障分野では、国民医療サービス(NHS)の待機患者の削減に加え、新たな地域保健センター250カ所の設立が発表された。

経済成長の促進策として、議会会期中に1,200億ポンド超の公共投資を実施すると表明した。政府支援のもと、ロンドンのヒースロー空港・ガトウィック空港の拡張やサイズウェルC原子力発電所、ロンドン東部・テムズミードへのドックランズ軽鉄道(DLR)延伸計画、テムズ川を地下トンネルで横断する大型道路(Lower Thames Crossing)建設など、大型インフラ事業が進められる。

今回の発表に合わせて予算責任局(OBR)は経済・財政見通しを公表した。実質GDP成長率については、2025年見通しを1.5%とし、2025年3月時点(1.0%)から上方修正した。消費者物価指数(CPI)は、2025年は3.5%、2026年は2.5%と見込んでいる。他方で、中期的な生産性成長率の見通しは下方修正し、2029~2030年度の税収は2025年3月時点から約160億ポンド減少すると予測している。

(注)財務省PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によれば、eVED税額は1マイル(約1.6キロ)あたりBEVが3ペンス(1ポンド=100ペンス)、PHEVが1.5ペンス(PHEVはガソリンでの走行距離に応じて燃料税も支払う)。2029~2030年度の税率は物価上昇に応じて更新される可能性がある。

(森詩織)

(英国)

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