カナダ・トロントでMaRSクライメットインパクト開催、グリーン分野の最新動向と日系企業連携の可能性

(カナダ、米国)

トロント発

2025年12月11日

カナダ・トロント中心部に所在する北米最大規模の都市型イノベーションハブのMaRSディスカバリー・ディストリクトで12月2~3日に、同組織が注力するグリーン分野やネットゼロ関連のスタートアップエコシステムをテーマに毎年開催されるカンファレンス「MaRSクライメットインパクト(Climate Impact)」が開催された。イベントでは、パネルディスカッションやスタートアップによるピッチセッションが行われ、環境、住宅、鉱物資源、水問題など幅広い分野で最新の技術やビジネスモデルが紹介された。

2日午前中のセッションでは、二酸化炭素(CO2)回収技術に関する議論が行われた。オランダ発のスタートアップのスカイツリーは、貯蔵可能なCO2回収技術を有し、カナダに拠点を移した背景として、カナダ政府によるグリーン投資関連補助金が設備投資(CAPEX)削減に寄与する点を強調した。同社は日本でもパイロット事業を展開しており、今後の対日投資拡大が期待される。

続くセッションでは、カナダで急増する移民に対応する住宅供給の課題が取り上げられた。住宅不足の深刻化と住宅価格の高騰は、2025年春の連邦下院議会選挙の大きな争点となっていた。9月にはマーク・カーニー首相が130億カナダ・ドル(約1兆4,690億円、Cドル、1Cドル=約113円)規模のアフォーダブル住宅の建設計画を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますするなど、大いに注目される産業・政策分野だが、それに対してテクノロジーの観点から建設労働者不足への対応として、省力化技術やモジュール、プレハブ建設が注目されている。パネルに登壇したインテリジェントシティは、建設サプライチェーンの改善に向け、工場でロボットが製造したコンポーネントを現場で組み立てるサービスを開発していると説明した。

鉱物資源に関するセッションでは、使用済みの製品からレアアースを抽出・精製し、サプライチェーン構築を目指すサイクリックマテリアルが登壇し、「中国の供給網への依存が問題化する中、同分野への注目が高まっている」と指摘、西側諸国と連携して課題解決を図る必要性を訴えた。

水資源に関するセッションでは、ビルディスがエイチ・アンド・エムやルルレモンなどのグローバルアパレルブランドとの協業を通じ、水関連イノベーションを世界に広げる取り組みを紹介。これまで十分に注目されてこなかった水問題に対し、ファッション業界との連携を軸に新たなソリューションを提供している。

写真 セッションの様子(ジェトロ撮影)

セッションの様子(ジェトロ撮影)

3日のピッチセッションでは、グリーングラファイトテクノロジーがHFベース(フッ化水素酸)の技術を活用し、日本のパナソニックや住友化学などと協業を進めている事例を紹介。スタートアップに不足しがちなインフラや調達機能を大手企業との連携で補完する重要性を強調した。

カナダはグリーン分野の産業育成に向け、海外からの投資受け入れや日本企業との協業を積極的に推進している。脱炭素やネットゼロに向けた技術を求める日本企業にとって、カナダは有力なパートナーとなり得る。今後、両国間での技術連携や共同開発の機会がさらに拡大することが期待される。

写真 展示スペースの様子(ジェトロ撮影)

展示スペースの様子(ジェトロ撮影)

(遠藤壮一郎、山田あゆみ、上地禅)

(カナダ、米国)

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