米フォード、赤字EV部門の大幅見直しで特別損失195億ドル計上、ハイブリッド車強化や蓄電池事業で収益性重視へ
(米国)
ニューヨーク発
2025年12月24日
米国自動車メーカーのフォードは12月15日、需要の伸び悩みやコスト高、規制環境の変化で採算が悪化した大型電気自動車(EV)への投資を削減するなど、赤字が続くEV部門の戦略の見直しを発表
した。ガソリン車、ハイブリッド車(HEV)、航続距離延長型EV(EREV)のほか、定置型蓄電池(BESS)事業といった収益性の高い事業へ資本を再配分するという。フォードは今回の見直しに195億ドルの特別損失を計上し、2029年にはEV部門の黒字化を見込む(注1)。
電動車両では、需要が高いHEVのラインアップ拡充に注力する。EV、EREVを含め、2030年までに世界販売台数に占める電動車両の割合を、現在の17%から約50%に引き上げる計画だ。またEVの小型・低価格化に向けた「ユニバーサルEVプラットフォーム」(2025年8月15日記事参照)に開発資源を集約する一方で、大型EVの一部の生産計画を中止するとした。その中で電動ピックアップトラックの「F-150ライトニング」に関しては、発電機を併用したEREVに衣替えし、1回の充電あたり700マイル(約1,100キロメートル)超の航続距離と高い牽引性能を両立させることで、バッテリー電気自動車(BEV)以上の利便性を担保する仕様に変更する(注2)。
また、米国内の生産体制も再編する。EVおよびバッテリーの生産拠点としてテネシー州に建設中の「ブルー・オーバル・シティ」は「テネシー・トラック・プラント」に名称を変更し、2029年から新型ガソリントラックの生産を開始する。加えて、現在F-150などを生産するオハイオ組立工場では、新たに新型のガソリン車やHEVのバンを生産する計画で、今後数年で米国内で数千人の新規雇用を見込む。
さらに、現在活用されていないEV用電池の生産設備を利用し、データセンターや電力インフラ向けのBESS事業に参入する。今後2年間で20億ドルを投資する予定で、まずはケンタッキー州にあるバッテリー製造施設を、500メガワット時(MWh)以上のバッテリーエネルギー貯蔵システムの製造拠点に転換。2027年までに年間20ギガワット時(GWh)の生産能力を確保する(注3)。
フォードのジム・ファーリー社長兼最高経営責任者(CEO)は「今回の見直しは、顧客主導による変革で、より強力で回復力があり、収益性の高いフォードを築くためのものだ。事業環境は変化しており、当社はより高いリターンが見込める成長機会に資金を再配分している」と述べた。
(注1)EV部門のEBIT(利払い前、税引き前利益)の赤字額は、2024年年間で約51億ドル、2025年第3四半期は約14億ドル。
(注2)ガソリンエンジンを発電機としてのみ機能させ、バッテリーを動力源として走行する。
(注3)バッテリー製造においてフォードと合弁パートナーだった韓国のSKオンは2025年12月、ケンタッキー州の拠点に関してはフォードの子会社が、テネシー州の拠点に関してはSKオンが所有・運営することで合意した。
(大原典子)
(米国)
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