2026年ブラジル大統領選挙の注目点を聞く

(ブラジル)

サンパウロ発

2025年12月12日

ブラジルでは2026年10月に、4年に1度の大統領選挙が予定されている。現時点で、候補者は確定していないが、現職で左派のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領と、それに対抗する右派候補らの立候補が見込まれている。こうした中、選挙の注目点について神戸大学経済経営研究所の濱口伸明教授に話を聞いた(インタビュー実施日:2025年12月8日)。

財政規律が政策の焦点

濱口教授によると、2026年の大統領選挙の政策の注目点は「財政への対応」という。ルーラ大統領は、中低所得者層を主な支持基盤とし、大きな政府を志向する。これまでは、現金給付や各種税の減免などの政策を実施してきた。ただ、これら政策は、中低所得者層からの評価は高いものの、財政負担が大きく、ビジネス界を中心に財政への懸念が根強い。濱口氏は、債務比率が高まれば、リスク回避のための資金の国外逃避、インフレ誘発、金利上昇といった悪循環に陥り、その結果として、経済に大きな打撃を与えかねないと警鐘を鳴らす。

濱口氏はまた、拡張的な財政政策、いわゆるバラマキ政策について、「やってよい時と、やってはいけない時がある」という。第1次および第2次ルーラ政権下(注1)では、中国の急速な経済成長に伴いブラジルの輸出も大幅に増加する、拡大局面にあった。そのため、条件付き現金給付などのバラマキ的な政策を行っても、債務比率は上がらず、インフレも抑制できたため、政策は「正解」だったといえる。他方、後継のジルマ・ルセフ元大統領(注2)は、経済環境が変わったにもかかわらず、拡張路線を継続し、経済の失速を招いた。時代の動きを読み間違えた結果といえる。濱口氏は、現在のルーラ政権についても、現在の財政状況を踏まえると、ルセフ政権の時のような危うさも懸念される、と述べた。

右派候補の動向については、現時点で立候補が有力視される候補は定まっていない。濱口氏は、ブラジルのメディアはリベラル色が強く、小さな政府を志向するビジネス界の支持が強い右派候補は、メディアの標的にされることも少なくないという。そのため、立候補の時期を探っている可能性があるようだ。いずれにせよ、選挙戦は、より充実した社会政策を期待する中低所得者層と、円滑なビジネス環境を求める中間・富裕層の間で意見が割れ、前回の大統領選挙に続き接戦になるとみられる。

(注1)第1次ルーラ政権は2003~2006年、第2次ルーラ政権は2007~2010年。

(注2)ルセフ氏の在任期間は2011年~2016年8月。2016年8月に、弾劾裁判により罷免された。

(井上徹哉)

(ブラジル)

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