日・ドイツ産業界の有識者、米国関税政策に対し日独関係の戦略的強化を提唱
(ドイツ、日本、米国)
調査部欧州課
2025年09月11日
日独産業協会(DJW)は9月5日、東京で「トランプ政権下の日独経済協力-競争から共創へ―」と題したシンポジウムを開催した。日本とドイツの有識者が登壇し、水素、人工知能(AI)、防衛、ロボティクスといった戦略分野において、両国の企業がどのように協働・補完しつつ、共にイノベーションを生み出せるか、活発な議論が行われた。
冒頭で、アンネ・ポムゼルDJW事務局長が「過去には日本企業とドイツ企業は競争相手だったが、今後は信頼に基づく共創のパートナーとなる」とシンポジウムの趣旨を説明した。マルティン・フート在日ドイツ大使館首席公使は開会あいさつで、米国の保護主義的な関税政策や地政学リスクの高まりにより世界秩序が大きく変化する中、「共通の利益と価値を共有するパートナー」として、2国間関係強化の重要性を強調した。その実例として、ドイツ人工知能研究センター(DFKI)による大阪公立大学内へのドイツ国外初の研究拠点開設や、産業用ロボットのシステムを手掛けるドイツのスタートアップのワンデルボッツとファナックや安川電機との協業などを挙げた。
ゲアハルト・ヴィースホイDJW理事長は基調講演で、ドイツにとって「15%の米国関税(2025年7月29日記事参照)は過小評価できない」としつつも、「再起不能ではない」との見方を示した。「日本、ドイツ、EUは輸出市場の多角化を図るべき」とし、「ドイツにとってアジア、特に日本の輸出市場としてのポテンシャルは大きい」と述べた。
続くパネルディスカッションでは、インキュベイトファンドの本間真彦共同代表とNRWジャパンの川久保カロリーナ代表取締役社長が、水素・ロボティクス・AI・防衛といった重要技術におけるスタートアップの成長を促すには、「海外展開と両国間の連携を後押しすべき」と述べた。富士通のチーフポリシーエコノミストであるマルティン・シュルツ氏は、世界がブロック化する中、ドイツ企業は「製品を世界中で販売する従来のグローバル化にとどまらず、アジアに特化したローカル化が必要」とし、日本企業がアジアで構築してきたサプライチェーンへのドイツ企業の参入によって発展する可能性を指摘した。経済同友会の茂木修欧州委員会委員長は、品質を重視する日本企業の現場での知見と、ドイツ企業の技術を掛け合わせ、民間企業が能動的に「共創」を生み出していくことが重要と訴えた。そのためには、EU特有の規制障壁の削減や実地試験での協力を通した技術の互換性確保など、事業環境の改善が必要と提言した。
シンポジウムの様子(ジェトロ撮影)
(川嶋康子)
(ドイツ、日本、米国)
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