米国が10%基本関税維持でも楽観できず、ウォン首相が独立記念演説で認識示す

(シンガポール、マレーシア)

シンガポール発

2025年08月19日

シンガポールのローレンス・ウォン首相兼財務相は8月17日、独立記念集会の演説(ナショナルデー・ラリー、注)で、米国がシンガポールに適用する基本関税10%はどの国にも適用される最低水準レベルの税率だが、「安心はできない」との認識を示した。ウォン首相は、基本関税の引き上げや、医薬品や半導体などの特定品目に対する追加関税の可能性に言及した。

ウォン首相の2025年の独立記念集会の演説は、米国関税措置や人工知能(AI)普及などに対応した新たな経済戦略の立案、若者への支援、高齢者対策、北部地域の再開発がテーマになった。同首相は「われわれの経済戦略の核心は、雇用、雇用、そして雇用(の確保)」と述べた。雇用支援として、40歳以上の中高齢労働者が休職して、公立教育機関にてフルタイムで学ぶ場合の生活費を支援するプログラム「スキルズフューチャー・レベルアップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の対象を、パートタイムでの就学や民間研修機関にも一部適用を拡大する方針を示した。また、大学での就職フェアの開催を拡大するとともに、自治体で中小企業と求職者とのジョブマッチングを行う。

また、ウォン首相は、中小企業を中心にすべての企業が効率的にAIを業務に取り入れ、競争力を高められるよう支援すると述べた。AI普及に伴う雇用の変化について、政府が全国労働組合会議(NTUC)、労働者と政労使連携で、雇用を再設計し、すべての労働者が能力を発揮できるよう支援する方針を示した。

北部ウッドランド、対岸のJS-SEZ開発で再開発が加速

さらに、マレーシア南部のジョホール・シンガポール経済特別区、(JS-SEZ、2025年1月9日記事参照)の開発により、対岸のシンガポール北部ウッドランドの開発が加速する見通しだ。両国間のアクセス向上のため、両国を結ぶウッドランドの入国管理施設規模を約5倍に拡張する。2026年末に開通予定のジョホールとシンガポールを結ぶ高速輸送システム(RTS)のシンガポール側駅周辺には、JS-SEZの事業をサポートする工業区を開発する。このほか、近接するアドミラル・パークに、約4,000戸の公共住宅(HDBフラット)を建設する予定だ。

(注)ナショナルデー・ラリーは毎年、独立記念日(8月9日)の後に行われる、その年の政策方針演説に相当する重要な演説。

(本田智津絵)

(シンガポール、マレーシア)

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