5月の米ISM製造業景況感指数、対中追加関税の一時停止後も実体経済への下押し続く
(米国)
ニューヨーク発
2025年06月03日
米国サプライマネジメント協会(ISM)は6月2 日、5月の製造業景況感指数を発表した。指数は48.5で、前月から0.2ポイントと小幅に低下し、ブルームバーグの市場予想(49.3)を下回った。関税引き上げや同政策を巡る先行き不透明感は供給面でのさらなる混乱や遅延に加え、新規受注の弱まりや余剰在庫への忌避感の高まりといった需要の下押しとして、製造業に広範な影響を及ぼしている。対中追加関税率引き上げの一時停止発表以降も、企業マインドは改善に至っておらず、トランプ政権の関税政策が実体経済に引き続き広く影響を及ぼしていることを示唆している。
項目別では、指数の構成要素のうち新規受注(47.6、前月47.2)、雇用(46.8、前月46.5)、生産(45.4、前月44)、在庫(46.7、前月50.8)はいずれも基準値の50を下回り、需要の減少を示している。供給(56.1、前月55.2、注1)は構成項目の中で唯一、基準値を上回っているが、(1)サプライヤーが企業からの早期納入要求への対応に苦慮していること、(2)入港における原材料の処理が遅れていること、(3)サプライヤーと調査対象企業の間で関税の負担を巡る交渉が続いていることなどが要因とされており、関税引き上げに伴うサプライチェーンの目詰まり感を表している。
指数の構成要素以外では、仕入れ価格(69.4)は前月比小幅減ながら、依然として非常に高い水準だった。産出額の大きい6大業種(注2)の全てで価格上昇が報告されたと述べており、鉄鋼・アルミ製品の価格上昇に加え、10%のベースライン関税の影響も発現してきたもようだ。また、輸入価格上昇や需要減、サプライチェーン上の課題などが相まって、輸入(39.9、前月47.1)は大きく低下しており、生産活動などの低迷が当面続く可能性があることを示唆している。
企業のコメントは、引き続き関税引き上げの影響について懸念を示すものがほとんどだった。関税引き上げに伴う価格転嫁については、「自動車メーカーは既に利益確保のため、製品価格引き上げを織り込んでいるが、サプライヤーとの協力は不十分で、サプライヤーが財政難に陥るケースが増加している」(輸送機器)、「ほとんどのサプライヤーは、関税を当社に全額転嫁している。サプライヤーは関税を税金とみなしており、税金は常に顧客に転嫁されるという立場をとっている。関税の一部を負担しているサプライヤーはごくわずかだ」(化学)など、業界や競争力によってかなりまちまちの状況だ。また、サプライチェーンへの影響については、「関税を巡る不確実性は、新規の国際受注に影響を与えている。関税は、アジアの顧客が納期延期を要請する主な理由にもなっている」(金属加工)、「政権による関税措置だけでも、新型コロナウイルス禍に匹敵するサプライチェーンの混乱を引き起こしている」(電気機器)、「中国との貿易協定が未解決のままなら、多くのDIY用品や業務用製品の店頭在庫が空になると予想している」(紙製品)など、中国をはじめとするアジアへの依存度の高い業種を中心に、影響が顕在化しているとのコメントが複数寄せられた。
なお、業種別では、景況感が拡大と回答した業種は全体で7業種、縮小したと回答した業種も7業種だった(注3)。
(注1)50を上回ると供給スピードの遅延、50を下回ると改善を示す。供給スピードの遅延は商品の動きの多さを示すので、指数として景況の良さを表す。ただし、サプライチェーン上のアクシデントなど、指標が本来意図するものとは異なる要因によって供給スピードが遅延した場合でも、数値は上昇することに留意が必要。
(注2)商務省発表の2023年第4四半期(10~12月)から2024年第3四半期(7~9月)までのGDP数値に基づき、産出額の大きい6業種の化学、輸送機器、コンピュータ・電子製品、食品・飲料・たばこ、一般機械、石油・石炭製品を指す。
(注3)拡大と回答した業種は、プラスチック・ゴム製品、非金属鉱物、石油・石炭製品、家具、電気機器、金属加工製品、一般機械。縮小と回答した業種は、紙製品、木材製品、印刷、食品・飲料・たばこ、輸送機器、化学、一次金属。
(加藤翔一)
(米国)
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