米新車市場に1,000万台の繰り越し需要、EVは成長鈍化の見通し
(米国)
ニューヨーク発
2025年06月09日
米バンク・オブ・アメリカ(BOA)証券のジョン・マーフィー・シニア自動車アナリストらは6月4日、オートモーティブ・プレス・アソシエーション(APA)主催のイベントで講演し、同社が発行する年次報告書「自動車戦争」の分析を基に、米自動車市場の見通しを示した。2025年の新車販売台数は1,650万台と堅調に推移し、2028年には1,800万台まで回復すると予測した。
背景には1,000万台の繰り越し需要
マーフィー氏は、車両価格が高止まりする中でも堅調な新車販売見通しが維持される背景として、 米市場に蓄積する1,000万台規模の繰り越し需要の存在を指摘した。また、2020年のパンデミックやそれに続く半導体不足により新車生産が滞った結果、比較的新しい中古車の販売価格が高値で推移しており、下取り価格やリース残価が押し上げられていると指摘。この結果、新車価格が高騰しても売却時に十分なリターンが期待でき、また比較的好条件でリースを利用できるため、一定の新車需要が維持されていると述べた(注1)。
新車の在庫は現在、約270万台と回復傾向にあるが、パンデミック前の水準(300万~350万台)には達していない。一方、生産稼働率は、採算ラインといわれる80%に比べると低めの70%前後にとどまる。マーフィー氏は、これは業界が需要に見合った台数のみを生産し、乱売を避けて「規律を保っていることの表れ」と分析した。
下振れ要因としては、自動車・同部品などを対象とした追加関税によるコスト増が車両価格に転嫁されることは避けられず、モデルチェンジのタイミングを活用して価格転嫁される可能性を指摘。また、低価格帯市場では、需要に対して供給が追い付いておらず、当該セグメントの空洞化が進行し、コスト面で優位にたつ中国車参入のリスクに言及。対中関税など防衛的措置を支持する姿勢を示した。
2016年に販売台数が乗用車を上回って以降も成長を続けるスポーツ用多目的車(SUV、注2)は、投入モデル数が減少し、2027年ごろから成長が鈍化すると予測。日系メーカーは小型車に注力し、デトロイト3(注3)はトラックに重きを置く方向に進むと見通した。
電気自動車(EV、注4)市場は、新モデルの投入が急減し、今後4年間で新規モデル数は71モデルと、2年前の半分以下になると指摘。一方、ハイブリッド車(HEV)は58モデルと、前年の56モデルからわずかに増加し、(生産、開発を含む)市場の重心がEVから内燃機関車(ICE)、HEVへ移る可能性が高いとした。EVの市場シェアについては、インフレ削減法(IRA)のEV税額控除が撤回される可能性や、カリフォルニア州の排ガス規制が撤廃され連邦レベルに制限されるリスクが影響し、2025年には前年と同水準の8%、以降1年ごとに2ポイントずつ拡大するものの2028年には14%にとどまるとした。これは前年発表した見通しの半分だ。また、HEVは2028年に20%に達するとみている。
今後のビジネスチャンスとして、アフターサービスの強化や、自動運転などに向けた「コネクティビティ」による収益拡大が重要で、直ちに取り組むべき最重要テーマだと強調した。
(注1)米自動車評価・調査会社ケリーブルーブックによると、2025年4月の平均車両販売価格は4万8,699ドル。
(注2)ここでは、クロスオーバーSUV(CUV)を指す。
(注3)米自動車大手3社(ゼネラルモーターズ、フォード、ステランティス)。
(注4)プラグインハイブリッド車(PHEV)が含まれるかは不明。
(大原典子)
(米国)
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