ADB、経済安定化に向けた最大8億ドル融資を承認
(パキスタン)
カラチ発
2025年06月30日
アジア開発銀行(ADB)は6月3日、パキスタンの財政の持続可能性強化と、公共財政管理の改善を目的に、最大8億ドルの融資プログラムを承認した。同プログラムは、3億ドルの政策融資と最大5億ドルの政策金融向け保証で構成し、民間金融機関だけでは対応が難しいリスク評価やリスクテイクを補完する意味合いがある。ADBは、この融資プログラムを呼び水として、パキスタンの商業銀行から最大10億ドルの資金調達を呼び込みたい考えだ。
ADBの融資プログラムは、パキスタン政府の財政状況を改善しながら、重点的に投資すべき分野への資金調達を行いやすい環境作りに狙いが置かれる。具体的には、人材育成の推進、インフラの整備、貧困の軽減などが優先的な投資分野として挙げられている。同分野は、パキスタン政府が掲げる長期的な国家計画「One Nation, One Vision」(ビジョン2025)で、優先的に達成すべき分野とされる7つの柱(注)とも密接に連動している。
ADBパキスタン事務所は、前述プログラム承認発表後の6月24日、カラチで政府関係者や大学教授・経済研究者、民間企業らを招き、パキスタンにおける今後のADBの中期計画「新たなカントリー・パートナーシップ戦略」ドラフトの説明会を開催した。同事務所は、2021年から2025年の5カ年計画で過去に達成した主にシンド州でのインフラ整備や、高度教育の推進、ワクチン接種による健康促進などの実績を説明した。これらの実績を踏まえ、同国で今後取り組むべき分野として、農業、デジタルトランスフォーメーション(DX)、ツーリズム、再生エネルギーを挙げ、同時に、課題としては政治の不安定さや、経済インフラの欠如、起業家の欠如、対GDP対内投資比率の低さなど多岐にわたる項目に言及した。戦略の重点項目の「民間活力の強化、公的機関の効率化」では、貿易制度の近代化、徴税制度の改善などとともに、「民間企業の金融(ファイナンス)へのアクセス拡大」を記し、先に承認した8億ドル融資プログラムと同様の支援継続を示唆した。
ADBパキスタン事務所の「新たなカントリー・パートナーシップ戦略」説明会(ジェトロ撮影)
(注)ADBが掲げるビジョン2025の7つの柱は次のとおり。(1)人を第一に、人的、社会資本の開発、(2)持続可能で国民に根差したインクルーシブな成長の達成、(3)民主的ガバナンス、制度改革、公共部門の近代化、(4)エネルギー、水、食料の安全保障、(5)民間セクターと起業家が牽引する成長、(6)付加価値を通じた競争力のある知識経済の構築、(7)交通インフラの近代化と地域間接続の向上
(糸長真知)
(パキスタン)
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