英国王チャールズ3世、カナダで政策方針示す国王演説

(カナダ)

トロント発

2025年06月03日

カナダの元首に当たる英国王チャールズ3世は5月27日、カナダの首都オタワで開かれた第45回カナダ連邦議会の開会式で国王演説を行った。

カナダ連邦議会開会式での演説は「国王演説(Speech from the Throne)」と呼ばれ、総督による「施政方針演説」の代読が通例となってきたが、今回は48年前の1977年以来3回目の「国王演説」となった。国王のカナダ訪問と国王演説の背景には、米国のドナルド・トランプ大統領が繰り返してカナダを米国の51番目の州に例えたり、カナダを51番目の州にするためには経済紛争も辞さないと発言したことなどが要因とされている。

カナダのマーク・カーニー首相との協議によって構成された演説の主なメッセージは、カナダの独立した主権国家としての立場を強調しつつ、米国との貿易・安全保障の交渉に積極的に取り組む姿勢を示すと同時に、他国・地域との新たな貿易・防衛関係の構築にも前向きであることを明確に打ち出すかたちとなった。

演説では、与党・自由党の主要公約の中間所得者向けの減税や、州間の貿易障壁の撤廃、大規模インフラ整備の迅速化などに言及し、カナダの再建と強化の好機と位置づけた。また、住宅建設の加速、国境警備の強化、盗難車や違法薬物フェンタニル密売の取り締まり、北極圏でのプレゼンス強化といった安全保障・地域開発に関する課題にも触れた。さらに、欧州の兵器生産を支援する「欧州再軍備計画(ReArm Europe Plan)」計画への参加も表明した。カナダの防衛装備調達で米国依存の軽減が期待される。演説から数時間後、政府は個人所得税の引き下げや、住宅向け減税措置、消費者向け炭素税の正式廃止を盛り込んだ「租税法案動議(Ways and Means motion)」を提出した。この動議は、今後の立法措置に向けた第一歩となる。

国王は、1957年に英国の故エリザベス2世がカナダ議会で述べた「いかなる国家も単独では生きられない」という言葉を引用し、カナダが長年にわたって世界に善の模範を示してきたことを称賛した。それが、カナダ国歌の一節「True North is indeed strong and free!(真の北は、確かに強く、自由である)」ということを思い起こさせると締めくくり、長い拍手を浴びた。

最大野党・保守党の党首のピエール・ポワリエーブル氏も、国王が直接演説をしたことの意義を認め、「カナダには受け継がれてきた伝統があることを国際社会に理解してもらうとともに、米国には、わが国が独立した自由な国家であり、自らの判断で意思決定を行う存在であることを認識してもらうことが重要だと考える」とコメントした。

(井口まゆこ)

(カナダ)

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