スズキ、グジャラート州工場の経済効果は3.8兆円と発表

(インド)

調査部アジア大洋州課

2025年06月11日

スズキは5月22日、インド西部グジャラート州に自動車製造の「スズキ・モーター・グジャラート(SMG)」、車載用リチウムイオン電池パック製造の「TDSリチウムイオンバッテリー・グジャラート(TDSG)」を設立して以降、2社が10年間(2014~2023年)で約2兆2,800億ルピー(約3兆8,760億円、1ルピー=約1.7円)の経済効果を生んだとの調査結果を発表した。分析は、インド経営大学院アーメダバード校(IIMA)、アナンド農業ビジネススクール(IRMA)が実施した。分析結果から得られたSMGとTDSGが位置するベチャラジ地域の経済環境の変化や、スズキの「Next Billion(ネクスト・ビリオン)」につながる取り組み(注1)について、スズキR&Dセンター・インディア(SRDI)執行役員のマユール・シャー氏、スズキ広報部の粕川聡史氏に聞いた(ヒアリング日:2025年5月29日)。

マユール氏は、IIMAが行ったルミノシティ解析(注2)によると、「2014年の工場設立以降、ベジャラジ地域の夜間の明るさは設立前に比べ約7.7倍になった」と語る。工場およびその敷地内にあるサプライヤーパークの照明に加え、トラックの出入りが以前より多くなったことや、新たに商業施設が建設されたことなどにより、デリーやムンバイ、グルグラムといった大都市圏と同水準の明るさを示す場所も現れてきている。また、SMG、TDSG、そしてそのサプライヤーにおいて、10年間で累計75万人以上の直接雇用を創出した。

IRMAがベジャラジ地域中心部から半径15キロ圏内の世帯(565世帯、約4万7,000人)を対象に行った調査(注3)では、全体の87%に相当する約4万1,000人が、SMGの経済波及効果により生活水準が向上したという結果が得られた。以前のベチャラジ地域の人々は出稼ぎや農業を中心に生計を立てており、固定収入を得ていた人々は少なかった。しかし工場稼働後、地域に工場やトラック運転手、商業施設、病院など新たな就業機会が生まれたことで、出稼ぎ者がベチャラジ地域に戻り、固定収入を得られるようになった。

また、スズキはインドでの次のステップとして、ネクスト・ビリオンにつながる取り組みの1つである社会貢献(CSR)活動を展開しており、2021年にグジャラート州に大規模な学校と病院を設立した。工場設立から10年以上経過した現在、交通量の増加に伴い、地域で交通安全に対する意識向上に向けた教育も実施しているという。また、SRDIは関係機関と連携し、2025年内に同州内で牛糞(ふん)を活用したバイオガス生産プラントの稼働を予定している。粕川氏は「電力事情や地域特性など、地域に適した手段でカーボンニュートラルへ取り組むことが重要であり、バイオガス事業もその取り組みの1つ。スズキは、EVなどと併せ、インドのカーボンニュートラル社会の実現に貢献していきたい」とする。マユール氏は「スズキは自動車製造のみならず、人々の生活をより良いものにしていくためには何ができるか考えていく必要がある」と語った。

(注1)インドの総人口14億人のうち、スズキとつながりのない10億人と自動車の分野を超えたつながりを築き、インドのさらなる発展に貢献していく取り組み。

(注2)衛星画像の夜間の人工光の明るさを使用し、経済活動を測定する方法。都市、町、その地域からどれだけの光が放出されているかを測定することで、経済活動の活発さや工業化・都市化の進捗を理解するのに役立つ。

(注3)健康、教育、資産、生計、生活水準の5つの指標に関する影響度を測った調査。

(野本直希)

(インド)

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