次世代航空機開発の米ジェット・ゼロ、47億ドル超を投じノースカロライナ州に工場建設へ
(米国)
アトランタ発
2025年06月19日
米国ノースカロライナ州のジョシュ・スタイン知事(民主党)は6月12日、次世代航空機開発を行う米スタートアップのジェット・ゼロ(本社:カリフォルニア州)が、47億ドル以上を投じ、同州ギルフォード郡グリーンズボロのピードモント・トライアド国際空港(PTI)に初の翼胴一体型(ブレンデッド・ウィング・ボディ)商用機「Z4」の製造施設および複合材構造物に関する最先端の研究開発センターを建設すると発表した。2036年までに同郡に1万4,560人以上の雇用を創出の見込みで、雇用人数の観点では同州史上最大の経済開発プロジェクトとなる(注1)。
ジェット・ゼロは2020年に設立され、カリフォルニア州のロングビーチ空港に拠点を置き、軍用、貨物用、商用に対応した多目的プラットフォーム型翼胴一体型航空機を開発している(注2)。同社によると、新施設で製造される「Z4」は、全翼機設計により、従来のチューブ・アンド・ウィング型航空機(注3)に比べて抗力が低く、翼幅全体で揚力を生み出すため、同サイズのチューブ・アンド・ウィング型航空機と比較して最大50%の燃料効率向上を実現するという。さらに、従来のジェット燃料で飛行し、持続可能な航空燃料(SAF)に対応した推進システムを備え、最大航続距離は5,000カイリ(約9,260キロメートル)で、座席数は約250席だ。
新工場は2026年上半期に着工し、2030年代初頭までに最初の航空機を納入予定で、2030年代後半までに月産最大20機の生産能力実現を見込む(注4)。また、工場の稼働後に本社をカリフォルニア州ロングビーチからグリーンズボロに正式に移転する予定だ。ノースカロライナ州に工場設置を決めた理由として、同社は、同州の航空宇宙エコシステム、世界クラスの研究機関、大学や専門学校へのアクセス、そして革新的な企業誘致への取り組みを挙げた。
ジェット・ゼロに対しては、アラスカ航空、デルタ航空、ユナイテッド航空が投資や提携を発表している(注5)。また、約14社の航空会社がジェット・ゼロの航空会社ワーキンググループに参加し、「Z4」が現在の空港インフラに容易に適合するための要件など、「Z4」に対して自社が求めるニーズに関して意見を表明している。
(注1)ジェット・ゼロは州政府との経済開発契約に基づき、2063年の契約満了まで雇用水準を維持することが求められている。
(注2)翼胴一体型機の開発は米空軍主導のプロジェクトで、2023年8月、空軍は同社に対し、実物大の試作機の開発および機能実証に2億3,500万ドルの資金を提供し、2027年までに初飛行を行う計画だ。同社は2024年3月、米連邦航空局(FAA)から8分の1スケールの実証機「パスファインダー」の耐空証明を付与された。
(注3)円筒形の胴体と翼で構成される従来型の航空機。
(注4)工場設計にあたり、シーメンスのスマートインフラストラクチャ、電動化、自動化部門などと協力し、最新のデジタルツールや産業用人工知能(AI)ツールを活用、最も効率的で費用対効果の高い生産・運用モデルを実現させるという。
(注5)アラスカ航空は2023年、航空会社として初めてジェット・ゼロのシリーズAラウンドに投資。2024年8月には、将来の航空機発注のオプションを含む投資を発表した。デルタ航空も2025年3月、ジェット・ゼロと提携し、実証機開発に必要な運用上の専門知識と機内設計に関するコンサルティングを提供することを発表。また、2025年4月には、ユナイテッド航空も最大100機の発注権と追加の100機の発注オプションを含む条件付き購入契約を発表した。
(横山華子)
(米国)
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