デジタル成長と再エネの交差、Financing Zeroサミットの現場から
(マレーシア、ASEAN)
クアラルンプール発
2025年06月02日
ASEANの脱炭素移行を資金面から支援すること目的とした「Financing Zero Summit」が5月27~28日にマレーシアのクアラルンプール市内で行われた。ASEAN諸国が2050年までのネットゼロを達成する上で2兆4,000億ドル規模の投資機会があるとの推計に基づき、公的資金に依存しがちな現状から、民間資本の活用を促進するのが同イベントの主題で、インフラ整備やリスク軽減、公正なエネルギー移行などの課題に関する資金調達の手法を議論した。
28日に実施された人工知能(AI)と脱炭素にかかるセッションでは、英国のエネルギーシンクタンクのエンバー(EMBER)が会期中に発表したレポート「AIを中心としたASEANのデジタル成長とエネルギー移行目標の整合性
」に基づいて講演した。エンバーによると、マレーシアでは、2030年までに電力需要の最大30%をデータセンターが占める。電力部門の脱炭素化が進まなければ、排出量がさらに増加する恐れがあると指摘した。データセンターへの再生可能エネルギー導入やエネルギー効率化が不可欠で、そのために気流管理や、先進的冷却技術、ハード・ソフトウエアの最適化が求められる。エンバーは、国家エネルギー移行ロードマップ(NETR)を中心に、クリーンエネルギーに関する政策が設けられていることを評価する一方、持続的なデジタル成長を下支えするには、データセンターのエネルギー転換が急務と指摘した。
「AIとデータセンターが牽引するASEANの新たなエネルギー需要」と題するパネルディスカッションでは、マレーシアの統合型クリーンエネルギーソリューション企業ディトロリック・エナジー、シンガポールの再エネ開発企業ブルーリーフ・エナジー、同国の持続可能エネルギーソリューション企業サクソン・リニューアブルズが登壇し、投資家にとっての機会と課題について議論した。
AIとデータセンターによるエネルギー需要に関するパネルディスカッション(ジェトロ撮影)
同セッションでは、ASEANでの課題として、予見可能性と透明性ある政策、能力開発、政治情勢への対応が挙げられた。こうした課題を克服する確実な政策を前提に、金融機関や建設事業者などの民間企業が投資を十分回収できるよう、現実的な路線でエネルギー移行に資源を投入する重要性が指摘された。加えて、政策はASEAN各国の経済・市場に合わせ、かつ、市場の変容に適用できるよう、柔軟性を持たせるべきとの意見も出た。聴衆からは、グリーンエネルギーに対する企業の実際の投資意欲の程度や、アジア他国での取り組みがマレーシアにもたらす教訓について質問が寄せられた。
(ニサ・モハマド、吾郷伊都子)
(マレーシア、ASEAN)
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