台湾米国商会、2025年白書で電力やデジタルネットワークインフラの強化を提言
(台湾、米国)
調査部中国北アジア課
2025年06月13日
在台湾米国企業の団体の台湾米国商会は6月10日、2025年版の「台湾白書」を発表した。白書は、在台湾の米国企業(法人会員約580社)が直面する課題や解決のための建議を各産業セクター別にまとめたもので、台湾当局に対する2025年の建議事項、前年の建議事項のレビュー、米国政府への提案からなる。
台湾当局に対する建議事項の重点としては、(1)法規制の国際基準との整合性、(2)重要インフラの強靭(きょうじん)性、(3)防衛力、(4)デジタル政策、(5)エネルギーとインフラ、(6)ヘルスケア、(7)人材を挙げた。
(1)については、デジタルプラットフォームのセーフハーバー原則(注1)、タイムリーな関係者協議、ヘルスケア技術の予測可能な審査プロセスといった分野では、国際基準とのギャップが存在すると指摘した。また、2016年に導入された60日間のパブリックコメント制度について適用対象範囲が不十分とした。
(2)については、蓄電設備、デマンドレスポンスシステム(注2)、再生可能エネルギーの統合への投資を通じて送電網の近代化を優先すべき、とした。また、最近相次いで発生している海底ケーブルの途絶に対処するため、台湾当局による海底ケーブル専用の修理船の取得を提言している。
(3)については、頼清徳政権が年間国防費をGDPの3%に引き上げるという公約に賛意と協力を示す一方で、最近の台湾当局の産業政策の変更は外国企業の参入を阻害する可能性があるとの懸念を示した。具体的には、防衛装備品契約のオフセット取引として、契約企業がどのような投資や技術共有を提供するのかに関するルールが不透明とした。
(4)については、人工知能(AI)導入について明確でリスクに基づく規制が欠如していること、管轄省庁による監督が重複していること、クラウドインフラの一貫性のない扱いが民間セクターの参入を妨げているとして、行政院傘下の集中デジタルガバナンスの必要性を強調した。
(5)については、再生可能エネルギーの許認可プロセスについて、域内調達要件や入札ルールが突然変更されるなど、政策に一貫性がないため、承認プロセスを合理化し、規制の透明性を改善するよう呼びかけた。
(6)については、医薬品・医療機器承認の適時性の改善、革新的治療に対する健康保険の適用拡大、台湾のバイオメディカル輸出の可能性強化のためには、官民のパートナーシップの制度化、エビデンスに基づく医療費の払い戻し、国際的な規制のベストプラクティスとの整合性においてさらなる取り組みが必要とした。
(7)については、少子高齢化と技能不足への対応のため、高度外国人労働者の労働許可書発行の透明性向上と申請手続きのデジタル化について初期段階の取り組みが必要とし、外国人労働者の専門資格のより広範な認定や扶養家族の入境の合理化を提言した。
このほか、米国政府に対しては、米台間の二重課税防止協定の締結(注3)がこれまで以上に求められていると強調。協定がないために、米国での事業拡大を目指す台湾の半導体サプライチェーン企業による米国への投資が制約され続けていると指摘した。
(注1)「セーフハーバー原則」は、特定の条件を満たすことで、法律上の責任を免除される規定を指す。例えば、プラットフォーム事業者がユーザーによってアップロードされた著作権侵害コンテンツを迅速に削除するなど所定の条件を満たすことで、著作権侵害に対する損害賠償から免責される。
(注2)電力の需給バランスを保つために、電力需要の変動に応じて需要家の電力使用を調整する仕組み。
(注3)台湾と米国は正式な外交関係を結んでいないため租税協定がない。
(江田真由美)
(台湾、米国)
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