民間企業と共同で気候中立に向けたシナリオと取り組みを提案

(ベルギー)

ブリュッセル発

2025年05月08日

ベルギーのクリーンテック研究機関Vitoは4月23日、鉄鋼大手アルセロール・ミタル(ルクセンブルク)、化学大手BASF(ドイツ)、送電事業者エリア(Elia、ベルギー)、エネルギーインフラ企業フラクシーズ(ベルギー)、フランス電力(EDF)のベルギー子会社ルミナスの5社と共同で、ベルギーが2050年までに温室効果ガス(GHG)の実質排出ゼロ(注1)を達成するシナリオと、短期、中期目標に向け必要な取り組みを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

シナリオは、(1)風力発電を中心とする再生可能エネルギー(再エネ)の促進、(2)原子力の促進、(3)エネルギーの輸入拡大の促進の3つが提案された(添付資料表1参照)。2030年までの短期目標〔二酸化炭素(CO2)排出量を1990年比で45%削減〕、2030~2040年の中期目標(同75~83%削減)、2050年までの気候中立(ネットゼロ)達成に向けた各期間の取り組みも示された(添付資料表2参照)。

全シナリオにおいて、ベルギーの最終エネルギー消費量は、最終消費者の需要に基づく建物や陸上輸送用車両などの電化、エネルギー効率の向上により3分の1に減少する見込みの一方で、電力需要は2倍以上に拡大する見通し。これらの電力需要の拡大に対応するために、風力と電力インフラへの投資拡大が必要となる。脱炭素化が困難な産業では、CO2の回収・貯留(CCS)が重要となる。原子力発電所の延長や新規導入を行わない場合はクリーン分子(注2)の輸入が拡大する。

天然ガスの主成分であるメタンは、引き続きネットゼロに向け重要な役割を果たす。CCSの利用が多いシナリオほど、天然ガスの利用は継続される。クリーン分子は、ネットゼロを達成する上で重要性は増すが、コストの観点から最終エネルギー需要への役割は限定的とした。また、再エネ由来のグリーン水素の国内生産はわずかとした。

大規模な低炭素エネルギー製造拠点を国内に持つことは、長期の運用コストを下げることを可能とするが、巨額の初期投資が必要となる。各シナリオの費用を比べると、(1)再エネ利用と(2)原子力利用の総コストは、ほぼ同等。2040~2050年に年間約125億ユーロが必要となり、電力供給の確保と長期的な戦略の実施に焦点を当てるべきとした。(3)エネルギーの輸入拡大シナリオも同等の総コストだが、クリーン分子の輸入価格が下がれば、電力輸入にかかる高いコストを相殺することができ、2050年時点で約30億ユーロの総コスト削減が可能な見込み。一方、クリーン分子の価格がシナリオ(1)、(2)と同等の場合、2050年まで年間約86億ユーロのコスト増となり、最もコストの高いシナリオとなる。輸入シナリオは、国内投資額は少ないが、分子と電力輸入の価格変動の影響を大きく受けるとした。

(注1)CO2排出量のみを対象とし、亜酸化窒素(N2O)、メタン(CH4)、フッ素化ガス(Fガス)などは含まない。

(注2)水素、e-メタン、e-メタノール、アンモニア、合成燃料など。

(大中登紀子)

(ベルギー)

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