トランプ米政権がAI半導体輸出管理を見直し、新戦略を検討か
(米国、中国)
サンフランシスコ発
2025年05月13日
米国商務省の広報官は5月7日、トランプ政権が、バイデン前政権の最終週に制定された人工知能(AI)向け半導体などへの輸出管理を強化する暫定最終規則(IFR、2025年1月14日記事参照)に関し、同IFRを改定あるいは撤廃する可能性について言及した。IFRの撤回・見直しを働きかけていた連邦議会下院のリック・マコーミック議員(共和党、ジョージア州)がプレスリリースで明らかにした(注1)。米国の複数のメディアによれば、商務省広報官は「バイデン前政権のAI向け半導体輸出管理は過度に複雑で官僚的で、米国のイノベーションを阻害するものだ」「われわれはこれに代わる、より簡潔かつ戦略的なルールを導入し、米国のAIの主導権を守るつもりだ」と述べた。
同IFRは、悪意のある行為者の手に先端AIモデルが渡らないようにすると同時に、安全で責任ある外国の事業体が米国の最先端AIモデルにアクセスできることを目的としている。先端コンピューティング用半導体に対する規制、最先端のクローズドなAIのモデルウエート(注2)に対する規制、輸出先での保管に関する条件付けの3つで構成されていた。
これに対し、エヌビディアやオラクルなどの米ハイテク企業、米国半導体工業会(SIA)、情報技術産業協議会(ITI)などは、過剰な輸出管理は、ほかの国々が中国のAIインフラに乗り換えることを促し、米国の技術的優位性を損なうと主張した(2025年1月14日記事参照)。一方、米AIスタートアップのアンスロピックは、輸出管理の維持を支持しつつも、知的財産や国家安全保障の観点から過度な規制はリスクを伴うとの見解を示していた。
商務省によるIFR撤廃方針に関する発表を受け、エヌビディアの広報はSNS上で「政権のリーダーシップとAI政策の新たな方向性を歓迎する。米国は次の産業革命を主導し、高収入の雇用を創出し、新しいインフラを構築し、貿易赤字を軽減するという、一世一代の機会を得るだろう」と投稿した。
AI半導体管理の新戦略について、複数メディアによれば、政府間契約が代替案の1つとして挙がっているという。これは、個別の国との取引を結ぶというドナルド・トランプ大統領の貿易戦略とも連動する可能性があるが、最適な方針については現在も議論が続いているという。
(注1)なお、2025年5月13日時点では米商務省から正式な発表は行われていない。
(注2)ウエートとは、入力された値の重要性や貢献度を数値化したもの。ウエートが大きければ、学習のための特徴に関連している。
(松井美樹)
(米国、中国)
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