ASEAN投資は過去最高、中国製造業が伸長、ASEAN・国連の報告書
(ASEAN、米国、中国)
バンコク発
2024年10月22日
ASEAN事務局と国連貿易開発会議(UNCTAD)は10月9日、「ASEAN投資報告書(AIR)2024年版」を発表した(注)。2023年の外国企業による対内直接投資(FDI)は、世界全体で前年比1.8%減(約1兆3,320億ドル)と低調な中、ASEANでは0.3%増(約2,300億ドル)とプラスを維持し過去最高額を記録した。世界のFDIにおけるASEANのシェアは17%に上る。
ASEANでは、米国と中国からの投資の伸びが堅調だった。米国からの投資額(2023年)は前年比で2倍強となる740億ドルで、シンガポール向けが9割超を占め、約7割は金融・保険分野に集中している。中国は約20%増の170億ドルとなった。製造業のシェアが35%超と最も高く、卸売り・小売りおよび不動産がそれぞれ2割と続く。日本は4割減の145億ドルで、米国とASEAN域内(219億ドル)、中国、香港(150億ドル)に次ぐ5位となった。2022年は242億ドルで、中国(146億ドル)を上回る3位だった。
AIRでは、中国からの投資に関する分析が14ページ超にわたり記載された。初期は国有企業による鉱業や建設、インフラ分野への投資が多く、2010年代以降は、コスト競争力向上を目的とした民間企業による繊維業や電子機器、デジタルといった分野への進出が徐々に増加し始めたところ、2020~2023年は製造業分野のFDIが年平均成長率33.3%と急速に伸びたと分析。こうした変化の理由として、AIRは米中貿易摩擦を指摘。鉱物資源の採掘加工を含めて、電気自動車(EV)や電子機器の分野で中国外でのサプライチェーン多元化を迫られた結果、中国製造企業によるASEAN向けFDIは米中貿易摩擦前と比べて3倍に拡大したと報告している。
分野別では、工場建設やオフィス開設などのグリーンフィールド投資は2023年に1,568件、1,750億ドル相当に上り、過去3年連続で増加した。データセンターなどへの投資が活発な情報通信(187億ドル、前年比64%増)やEVの生産拡大が見込まれる自動車(161億ドル、同16倍)などの伸びが目立つ。半導体も過去8年(2016~2023年)で56億ドルと、それ以前の10年間(2006~2015年)と比べて2.6倍に増加。半導体関連企業(チップメーカーや装置メーカー、ファブレスなど)の世界トップ25社は全てASEANに進出し、そのうち21社が2020年以降に新規・拡張投資を発表している。
報告において、カオ・キムホンASEAN事務総長は「地政学リスクを軽減するための投資フローの修正やサプライチェーンの分散など、世界経済の力学がシフトする時代において、ASEANがFDIの有力地としての強靭(きょうじん)性と魅力を示した」とのコメントを寄せた。今後の見通しについて、AIRは2024~2030年のFDIは年平均で3,000億ドルを超えるとの予測を示している。
(注)AIR作成に向けた議論に関しては、2024年7月にタイでASEAN事務局や産業界などとの意見交換が行われており、ASEAN・日本経済協議会日本委員会(AJBC)としてジェトロも参加した(2024年7月25日記事参照)。
(藪恭兵)
(ASEAN、米国、中国)
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